作品紹介(きらら)

【作品紹介】第13回「ちょっといっぱい!」(著者:火曜)

作品概要

❝私… ここで働いてみたいです!❞
(引用/火曜.『ちょっといっぱい!』第1巻.芳文社.2017年.30頁)

『ちょっといっぱい!』は、著者である火曜氏による漫画作品です。(全10巻)

『まんがタイムきららフォワード』(芳文社)にて2016年7月号から2023年5月号にかけて連載されていました。

本作品は、居酒屋「こはる屋」を舞台にそこで働く少女たちの日常を描いた作品です。

居酒屋を舞台としていますが、作風は所謂「グルメ漫画」や「お仕事系漫画」と比較すると「人情」を重視した作風となっており、本作品が描く人の持つ温かさに触れた後は、題名通り「ちょっといっぱい」飲みたくなります。

ここでは、本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。



あらすじ

心から、ほっとできる居酒屋がここに…! 宮原もみじ16歳、「旬菜酒場こはる屋」で一生懸命アルバイト中! 店長の南部皐月さん、先輩バイトの山吹ちゆりさん達と一緒にバイトは大充実! 読んだら誰もが行きたくなる、ほっとできる居酒屋がここにあります…!

引用:http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=1263/2023年9月6日閲覧



主な登場人物

宮原 もみじ(みやはら もみじ)
❝おばあちゃんに心配させないように私 しっかりしなくちゃ!❞
(引用/火曜.『ちょっといっぱい!』第1巻.芳文社.2017年.7頁)

本作品の主人公。両親の仕事の都合で高校生にして叔母のアパートにて一人暮らしをしていますが、家事の忙しさなどから周囲と話題が合わず学校生活に不安を感じている様子が見受けられます。

そんな中、偶然通りかかった居酒屋「こはる屋」にて、急遽不在となってしまったアルバイトの代わりとして臨時で働かされることになります。しかしそこで、それまで忘れかけていた充足感を思い出しそのままアルバイトとして働くことを決心します。

真っ直ぐな性格で人当たりもよいほか、一人暮らしをしているだけあってか料理が得意であり、食材を見て即座に料理を思いつく発想力や常連客の好みを把握する洞察力など、居酒屋のアルバイトに求められるスキル兼ね備えた人材であるといえます。

後に紹介するこはる屋の店長である南部皐月(なんぶ さつき)が高校生時代に初めてアルバイトをすることになった居酒屋「すずめ亭」の大将の孫であり、彼女と意外な接点があったことが後に明かされます。

山吹 ちゆり(やまぶき ちゆり)
❝はあ⁉ また このバカやらかしたの⁉❞
(引用/火曜.『ちょっといっぱい!』第1巻.芳文社.2017年.38頁)

もみじの働くこはる屋の先輩アルバイトの少女。背丈の低さから勘違いされがちですがもみじより一つ年上。

少々気が強く、後輩への指導も厳しめですが責任感も強くしっかり者といった印象を受けます。そんな彼女ですが、新人の頃は失敗も多かったようで皐月曰く「身の丈以上のことをして失敗するパターン」とのこと。

紅梅女学院という有名な学校に通う才女で完璧主義な一面がありますが、それは仕事で家を空けることの多い両親の影響から自立心が強いため。その性格から店内の冷蔵庫を開けっぱなしにして食材を無駄にしてしまった際には責任を感じて退職しようとしますが、もみじたちの説得により仕事を続けていくことを改めて決心します。

物語の後半では受験勉強に励む姿も見られるほか、新たに加わる後輩へバトンを託すなど上記のエピソードを含めもみじの先輩として、彼女より一歩先の場所で成長していく様子は本作品の見所の一つでもあります。

南部 皐月(なんべ さつき)
❝一人ひとりに真心込めたおもてなし それがウチの売りなんだから❞
(引用/火曜.『ちょっといっぱい!』第1巻.芳文社.2017年.56頁)

もみじの働くこはる屋の店長。若い女性であり従業員の失敗も成長の糧だと受け入れる寛大な心の持ち主で、人生の先輩としてもみじたちの相談に乗ることもあります。

多数の来客に動じることなく従業員に的確に指示を出すほか、従業員の失敗で薄く剥き過ぎたゴボウを即座に「ゴボウの天ぷらタワー」として商品化する機転を持ち合わせており店長として非常に頼りになる存在です。

修業時代に毎日つけていたノートに書かれた店舗の改善案を上司が取り入れた結果、売り上げが一週間で倍になるなどその手腕は下積み時代から発揮されていました。

しかし、修業時代に働いていた大手店舗の規模の大きさゆえに従業員側が取りこぼされ目先の課題優先になっている現状に疑問を抱き、お客一人ひとりへの真心込めたおもてなしを目指し個人で店を開くことになります。

もみじの紹介欄で記述したように初めてアルバイトすることになり居酒屋の道を志すきっかけともなった居酒屋「すずめ亭」の大将は、もみじの祖父でありその時代に幼少期のもみじとも面識があったため、初対面時にかつての面影を感じて偶然通りかかっただけの彼女を臨時で雇ったという経緯があります。

如月 真澄(きさらぎ ますみ)
❝気持ちが解れて人と人が仲良くなれる… おいしいお酒にはそういう力があると思うの❞
(引用/火曜.『ちょっといっぱい!』第1巻.芳文社.2017年.148頁)

こはる屋の仕入れ担当の女性。普通なら手を出せない高品質な食材でも安価で買い付ける才をもっていますが、業務中でも飲酒するほどの無類の酒好きです。

従業員のことをニックネームで呼ぶフレンドリーな性格。その性格を活かし市場の人々だけではなく来客ともすぐに打ち解けるなどこはる屋に無くてはならない存在です。

酔っぱらっている描写が多く一見いい加減な印象を受ける彼女ですが、作中で「灯北大学」と呼称される実在する「東北大学」が由来と思われる偏差値の高い大学に通う秀才な女子大生という意外な一面もあります。

藍川 凪(あいかわ なぎさ)
❝…お友達と…一緒に帰るなんて すごく久しぶり…❞
(引用/火曜.『ちょっといっぱい!』第1巻.芳文社.2017年.166頁)

長身でどこか物憂げな印象を受ける少女。自己主張は少なく口下手で自身の笑顔にコンプレックスがあるため周囲から距離を置いています。

しかし、もみじの友達になりたいという真っ直ぐな想いに感化され彼女には気を許す関係になります。母親は仕事で忙しく父親は離婚で別居中であるため、一人暮らしで自宅で一人で食事をすることの多い彼女にシンパシーを感じています。

ある日、もみじに合うためこはる屋に訪れた際に、ちゆりが風邪で欠勤している中30人の団体客をもてなすもみじたちの忙しさに見かねて業務を手伝うことを決心します。その後、皐月の勧誘を受けて正式にアルバイトとしてこはる屋で働くことになります。

性格故に接客や料理は不慣れですが仕事に向き合う気持ちは誠実であり、ちゆりを始め多くの従業員に支えられながら徐々に成長していきます。反面、来店客から料理に使用されている野菜の産地を聞かれた際に「畑」と答えるなど天然な一面もあります。



こんな方にオススメ

最近、仕事や趣味など新しいことを始めた方

【キーワード】「日常」「高校生」「居酒屋」「人情」「王道構成」

本作品は、あらすじにもあるように居酒屋で働く少女たちの日常を描いた作品ですが新たな挑戦に「失敗」は付き物、作中の少女たちも懸命に働きながらも多くの失敗を重ねていきます。しかし、本作品ではそんな失敗を温かく受け入れるような描写が徹底されているのが特徴です。

きらら作品らしく、仕事を続けていくうえでの辛さや汚い部分はオミットされており人情味あふれる登場人物たちによる温かな仕事ぶりが描かれています。

本作品の「失敗」に対して寛容な雰囲気は、登場人物達と同じく新しく物事を始めた読者にとって「安心感」や「癒し」を感じさせ、前向きな気持ちになれる魅力があります。

また、ただ単に登場人物たちの働きぶりを描くだけではなく、物語の後半では主人公の新たな挑戦に焦点が向けられ展開のマンネリ化を感じさせません。

全10巻と少々巻数が多く揃えるのに苦労する作品ですが、上記のような多くの魅力が詰まった作品なので是非読んでいただきたい作品です。



感想(ネタバレ含む)

失敗を温かく受け入れる「心から、ほっとできる」雰囲気

本作品は作品概要でも記述したように居酒屋を舞台としていながら「料理」や「仕事内容」などは深堀せず、そこで働く従業員たちの「人情」に焦点が当てられているのが特徴です。

仕事をしていくうえで必ず起こりうる「失敗」に対して本作品は徹底して「受け入れる」姿勢を貫いています。注意はされど責められることはなくこの失敗を次に生かそうと心から思える本作品の職場環境は、直近で仕事や趣味など新しいことに挑戦している読者に安心感や希望を抱かせます。

「ストレス社会」とも形容されるようになった現代社会において本作品のもたらす心地よい温かさは題名の通り「ちょっといっぱい」したくなる魅力があります。

失敗を乗り越え新たな夢を抱く主人公

本作品は上記で記述したようなこはる屋で働く従業員の日常を描くだけでは終わりません。物語の後半ではもみじの祖父母の経営していた「すずめ亭」の再建を目指すもみじの姿に焦点が当てられます。

物語序盤で「失敗」を温かく受け入れ次の挑戦に生かす下地を十分に築き上げてから視点を主人公の新たな挑戦にシフトする流れは展開として非常に丁寧であり、これまでもみじのこはる屋での働きを追ってきた読者が思わず彼女の夢を応援したくなるような自然な仕上がりになっています。

また、後に紹介しますがもみじが夢を叶えるまでの過程は作中では敢えて詳細に語ることなく最終巻の表紙・裏表紙で成長したもみじたちを描く構成は、読了後にその過程を想起させる余韻が感じられ良い塩梅だと感じました。



お気に入りの場面・台詞

10巻の表紙・裏表紙

最終巻に当たる第10巻の表紙・裏表紙では作中では描かれることのなかったもみじたちのその後が描かれています。

表紙は成長し自分の店を持つことになったもみじが描かれていますが、その手にはかつて皐月がすずめ亭にて大将に初めて認められた「梅入り卵焼き」と思われる料理が描かれており、皐月との繋がりを感じさせる粋な演出だと思いました。

また、裏表紙はもみじと凪、そして小夏の3人が描かれています。本編では小夏が6歳であったことから最終回から約10年の時が経っていると思われ、幼少期に居酒屋の手伝いをしていた彼女がかつてのもみじと同様に時を経てアルバイトとして居酒屋に戻ってくるという構図は感慨深いものがあります。



小ネタ・余談

前作の「あのお二人」

第20話では火曜氏の前作に当たる『彼氏ってどこに行ったら買えますの⁉』(芳文社)に登場する恩田みすず(おんだ みすず)とその恋人である森哉(もり はじめ)が友情出演しています。単行本の描きおろしページでは当作品の宣伝もしており氏のファンにとっては嬉しい出演となっています。



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最後に

今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。

前回の投稿から少し日が開いてしまいましたね。やはり巻数が二桁ともなってくると記事を書くのにも苦労しますが描き切った後の達成感はひとしおです。

以前に記事にしましたが、まんがタイムきらら20周年企画「わたしのイチオシきらら」に感想文を無事投稿することができました。あとはじっくりと結果を待つのみです。

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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