作品紹介(きらら)

【作品紹介】第15回「すわっぷ⇔すわっぷ」(著者:とめきち)

作品概要

❝キスで入れ替わりって便利だね❞
(引用/とめきち.『すわっぷ⇔すわっぷ』第4巻.芳文社.2019年.116頁)

『すわっぷ⇔すわっぷ』は、著者であるとめきち氏による4コマ漫画作品です。(全4巻)

『まんがタイムきららキャラット』(芳文社)にて2014年10月号・11月号・12月号でのゲスト掲載の後、2019年4月号まで連載されていました。

本作品は、「キス」をすることで体が入れ替わる能力を偶然手にした少女二人の日常を描いた作品です。

身体や人格の入れ替わりを題材とした作品は数多く存在しますが、本作品はきらら作品らしくその能力を用いて大きな問題を解決するといった事態は発生せず、あくまで「日常生活を送る上で便利な能力」程度の範疇に収まっており明るく穏やかな日常の様子が展開されることが特徴です。

ここでは、本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。



あらすじ

キスで入れ替わりって便利だね。 春子はクラス一頭が良く、夏子はクラス一のギャル。 ある日からキスをすれば体を入れ替わり、 もう一度キスすると体が元に戻るようになってしまった! 女の子同士の、新たな入れ替わり4コマの開幕です!

引用:http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=1108/2023年9月27日閲覧



主な登場人物

一ノ瀬 春子(いちのせ はるこ)
❝おっぱい大きいし私このまま二階堂さんの体のままでいいかもしれません❞
(引用/とめきち.『すわっぷ⇔すわっぷ』第1巻.芳文社.2015年.16頁)

ハイライトのない目が特徴の本作品の主人公。登校時に道路の角で後に紹介する二階堂夏子(にかいどう なつこ)と衝突した際に偶然キスしてしまったことをきっかけに彼女と体が入れ替わるところから物語は始まります。

クラス一の秀才ですが、大人しい性格故に友人関係は希薄でした。しかし、夏子との入れ替わり能力が発覚して以降、彼女やクラスメイトとの交友を深めるほか意外にも大雑把で乗りの良い性格であることが判明していきます。

自身の胸の小ささにコンプレックスを抱いており、スタイルの良い夏子と入れ替わった際には頻繁に自身の胸を揉むほか、日頃からグラビア誌を愛読しているなど胸への執着心が非常に強いです。

友人相手にも敬語で話す様子から真面目な印象を受けますが、上記の胸への執着心のほかにも自宅では家事を妹に任せ、一日中ゲームに興じるなど欲望に忠実な性格で夏子との入れ替わりも専ら私利私欲のために利用しておりキスへの抵抗感もない様子。

控えめな外見からは想像のつかない癖のある性格が魅力で本作品のコメディ要素の一端を担っている彼女ですが、友人関係においては純粋で友人との休日の外出やメールアドレスの交換に素直に喜んだりする可愛らしい一面も見られます。

二階堂 夏子(にかいどう なつこ)
❝もしかしてこの体のまま勉強したら問題を理解できるんじゃ!❞
(引用/とめきち.『すわっぷ⇔すわっぷ』第1巻.芳文社.2015年.23頁)

本作品のもう一人の主人公。前述したように不慮の事故から春子と体が入れ替わるようになってしまいます。

グラマラスな体型の持ち主で派手な外見からクラス一のギャルと評される彼女ですが、料理が得意なほか男性が苦手であったりと、外見に反して不純な春子とは対照的に見かけによらず清純な心の持ち主で春子とのキスに抵抗感を感じる様子も見られます。

しかし、入れ替わりの利便性からくる欲望には打ち勝てず彼女もまた春子同様に私利私欲のためその力を利用していくことになります。

春子とは入れ替わりの能力を利用し合う仲ではありますが彼女のことを一人の友人として大切に想っているギャルらしい懐の深さの持ち主で比較的常識人でもあることから癖のある春子とは凹凸コンビのような相性の良さを感じられ、彼女と共に本作品の安定感のあるコメディ要素の構築に一役買っています。



こんな方にオススメ

日常要素にほんのりとした百合要素を求める方

【キーワード】「日常」「高校生」「入れ替わり」「微百合」「コメディ」

本作品は、「物語の展開」「登場人物のキャラクター性」「コメディ」「百合要素」など、全体的にバランスよく仕上がっており、『まんがタイムきららの読者層』が求めている要素を一通り兼ね備えた本作品は、多くの『きらら』ファンにオススメできる作品だと感じます。

物語の設定上、主人公たちによる「少女同士のキス描写」が頻出しますが主人公たちはキスによる入れ替わりを利便性から利用しているだけであり、その関係性も恋人ではなく友人として描かれているため本格的な同性愛描写に苦手意識のある方でも読み易い仕上がりになっています。

また、作品概要でも記述したように入れ替わりの能力を大きな問題解決に利用するわけではなく一般的な日常生活の範疇での使用にとどめることが最後まで徹底されているほか、基本的に一話完結型であり所謂「お約束展開」も多いため日常系作品として非常に安定感のある作品です。

上記で述べた要素のほか、後に紹介する主人公の病みつきになるキャラクター性は第一話の時点で確立されているため、公式サイトなどの試し読みで自身の趣味趣向との適合性を確認しやすいのも嬉しいポイントです。

全4巻という揃えやすさを含めて是非読んでいただきたい作品です。



感想(ネタバレ含む)

きらら作品らしいほのぼのとした入れ替わりライフ

「入れ替わり」を題材とした作品は世に数多く存在しており、「入れ替わった体を元に戻す手段が分からない」「入れ替わっていることを周囲に隠しながら生活する上で発生する困難」といった要素が定番ですが、本作品では第一話にして入れ替わりを解除する方法が判明するほか、入れ替わりの能力を友人に早々に打ち明けその後は日常光景として受け入れられるなど良い意味で都合がよくほのぼのとした展開が描かれています。

入れ替わり能力の使用例も「自身の苦手な食材も入れ替わった後なら美味しく感じる」「服を試着した後に入れ替わることで着こなせているか客観的にチェックする」「発売直後の新作ゲームを徹夜でやり込むために相方の体に睡眠を取らせ、眠気が来たタイミングで入れ替わることでプレイを続行する」

など、日常生活を送る上で少々便利な能力程度の扱いであり、その能力を用いて大きな困難を解決するわけでも試験の替え玉受験などの不正行為に手を染めるわけでもないところが実にきらら作品らしいと感じます。

癖になる春子のキャラクター性

控えめな外見と大雑把で欲望に忠実な内面のギャップが魅力の彼女ですが、そのくど過ぎず丁度よい塩梅に仕上がったキャラクター性は4コマ漫画特有の緩やかな展開にマッチしており本作品の安定感のあるコメディ要素につながっているという感想を持ちました。

第一話の時点ですでに確立されていた丁寧な言葉遣いから繰り出される胸への執着心を始めとした突飛な発言や行動は非常に愉快であり、常に「彼女は次に一体何を言い出すんだろうか」といった期待感を持ちながら最後まで気持ちよく読み進めることができました。

しかし、欲望全開な発言や行動ばかりかと思えばそうではなく、友人と経験する初めてのイベントでは普段見せない屈託のない笑顔を見せる可愛らしい一面もあり、上記のギャップと合わせた二段構えのギャップはキャラクター設定として秀逸だと感じました。

ハイライトのないインパクトのある瞳と、控えめな外見には似つかわしくない私利私欲に塗れた発言や行動の数々はセットで印象に残りやすく、上記で述べたような創作物のキャラクターとしての完成度の高さから私のお気に入りのキャラクターの一人でもあります。

MacKey
MacKey

余談ですが、とめきち氏は「アイドルマスターシンデレラガールズ」に登場する佐久間まゆ(さくま まゆ)のファンであることが知られています。
彼女も瞳のハイライトが薄いのが特徴ですが、氏の趣味なのでしょうか。



印象的な場面・台詞

❝いいですよねその子‼私も写真集持ってます! 乳がたわわなのが何より素敵です❞
(引用/とめきち.『すわっぷ⇔すわっぷ』第1巻.芳文社.2015年.70頁)

来日したモデルに合いに行く夏子の代わりに彼女の体で本屋のアルバイトをする春子のエピソードで、密かに商品のグラビア誌を読んでいた男性スタッフに春子が言い放った台詞。

夏子の体であるため後に齟齬が起きないよう極力会話を控えるように決心した直後の出来事であり、その後も誤魔化そうとすることなくすぐに開き直り男性スタッフに上機嫌に好みのグラビアアイドルを紹介する彼女の大雑把さが笑いを誘う場面です。

後に帰ってきた夏子と入れ替わる所を目撃され「夏子は女性が好き」と勘違いされるオチまでの流れが秀逸で、入れ替わりによるリスクを面白おかしく描いた展開は単話として完成度が高く印象深いエピソードです。



小ネタ・余談

※2024年9月1日追記
まんがタイムきらら コミックマーケット88企画本 サバイバル!!

本作品は2015年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット88にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット88企画本 サバイバル!!」に掲載されました。サバイバルがテーマとなっており、遭難先でも入れ替わりを駆使して逞しく生きる春子たちの姿が描かれました。

※2024年9月1日追記
まんがタイムきらら コミックマーケット92企画本 せんせぇ!

本作品は2017年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット92にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット92企画本 せんせぇ!」に掲載されました。先生がテーマとなっており、春子の体を借りた夏子が数学の授業をするという内容でした。

※2024年9月1日追記
マチ★アソビvol.15企画本 きらら★アソビ2015~あきづくし~

本作品は、2015年9月26日~2015年10月10日に徳島県にて開催されたイベント「マチ★アソビvol.15」にて販売された「マチ★アソビvol.15企画本 きらら★アソビ2015~あきづくし~」に掲載されています。秋がテーマとなっており、巨大なキノコに座る不思議の国のアリス風の衣装に身を包んだ春子が描かれました。

単行本の背表紙

本作品の単行本は各巻の背表紙に春子と夏子の半身が描かれており、背表紙を合わせることで1・2巻で春子が、3・4巻で夏子が半身だけ入れ替わった状態で描かれるようになっています

背表紙を合わせることで一つの絵になる手法はきらら作品では『桜Trick』(まんがタイムきららミラク/著者:タチ)の7・8巻が有名ですね。遊び心のあるこの背表紙は残念ながら電子書籍では再現しずらいので、紙書籍で購入されることをお勧めします。

「きららファンタジア」オリジナルキャラクター

著者であるとめきち氏は、2017年から2023年まで配信されたスマートフォンゲーム『きららファンタジア』(ドリコム)の期間限定イベント「Fairies Trick」に登場するキャラクター「アモル」「オルバ」のイラストを手掛けました。

本作品はゲーム内に登場しませんが、当イベントは『桜Trick』(芳文社/著者:タチ)の参戦イベントであり、「キス」がキーポイントとなる作品同士ということもあって本作品を思い浮かべた方もいたのではないでしょうか。



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最後に

今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。

これまで感想の項目で一人のキャラクターをピックアップして書くことはなかったですが、それくらいお気に入りのキャラクターでもあります。

話は変わりますが、まんがタイムきらら20周年企画「わたしのイチオシきらら」の応募が9月30日をもって締め切られました。応募された方はお疲れ様でした。SNSを見ているとすでに一部の著者に感想文が届いているようで、自分の描いた感想文もいずれ読まれると思うと緊張します。

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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