作品概要
❝たとえ知名度がなくても面白い本をオススメするのが 書店員の仕事だと思うんです…!❞
(引用/はまじあき.『きらりブックス迷走中!』第1巻.芳文社.2016年.28頁)
『きらりブックス迷走中!』は、著者であるはまじあき氏による4コマ漫画作品です。(全2巻)
『まんがタイムきららMAX』(芳文社)にて、2015年9月・10月・11月号でのゲスト掲載の後、2017年10月号まで連載されていました。
本作品は、世間知らずなお嬢様である主人公が社会常識を学ぶべく、従姉妹の経営する書店でアルバイトをする様子を描いた作品です。
作中では掲載元である「まんがタイムきらら」をパロディにした「まんがタイムきらり」が登場し、知名度の低い作品を必死にPRする主人公の姿や、「2巻乙」といった俗語など漫画業界目線に立ったエピソードが多いことが特徴です。
ここでは、本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。
あらすじ
世間知らずなお嬢様・桐生院きらりは、母の紹介で「鳴草書房」という歴史ある本屋さんで初めてのアルバイトを体験することに。 しかし鳴草書房の実態は、アニメグッズ、同人誌、アイドルライブとなんでもありのカオスなオタク系書店だった! きららMAXで大人気連載中の迷走しがちなお嬢様の書店バイト奮闘記、待望の第1巻発売!
引用:http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=1220/2023年10月7日閲覧
主な登場人物
□桐生院 きらり(きりゅういん きらり)
❝日常ものってジャンルなんですね! 話も面白くてもの凄く共感しちゃいます!❞
(引用/はまじあき.『きらりブックス迷走中!』第1巻.芳文社.2016年.15頁)
物腰柔らかで上品な印象を受ける本作品の主人公。大財閥の娘で世情に疎かったため社会常識を学ぶべく母親の紹介で従姉妹の経営する「鳴草書店」にてアルバイトをすることになるところから物語は始まります。
表紙で衣服を脱いだ女性同士が抱き合っている百合系と思われる同人誌を目にして「相撲漫画」と勘違いするほど漫画に対する知識の少ない彼女ですが、店内で表紙の華やかさから手にとった「ゆるふわ革命」という漫画作品に感銘を受けて以降、作品の魅力を世間に知れ渡らせるために書店員として奮闘していくことになります。
大財閥の御令嬢らしく、ゆるふわ革命を一万冊も注文しようとするほか、当作品が入荷されるたびに個人で買い占めを行うなど財力に物を言わせた行動が目立ちます。
また、ゆるふわ革命が掲載されている「まんがタイムきらり」を読んで「きらりに男性キャラは不要」と論じるなど少々ステレオタイプな考えの持ち主です。
しかし、作品に対する情熱は本物であり「作品へのアンケートを家族総出で複数枚応募する」などといった行動の数々は漫画ファンにとって共感できるものになっています。
□桜庭 ふわり(さくらば ふわり)
❝固くならない!バイトを楽しも―!❞
(引用/はまじあき.『きらりブックス迷走中!』第1巻.芳文社.2016年.11頁)
頭部左側の2本の癖毛が特徴のきらりの先輩アルバイト。名は体を表すというように寝ることと食べることが趣味の所謂「ゆるふわ系」の少女です。
明るく素直な性格できらりのゆるふわ革命へ向ける情熱にもある程度理解を示しており、彼女の宣伝活動にも協力的です。彼女の仕事上でのミスをフォローする描写が多く、店内では彼女の教育係といった立ち位置です。
反面、私生活では好物のポテトチップスを貪りながら深夜までゲーム三昧で学業も疎かになっているなど、寝ることと食べることが趣味というだけあって良くも悪くも欲望に忠実な性格です。
後に鳴りを潜めますが第一話では店内でポテトチップスを食べながら商品の漫画を読むという仕事に対して不誠実な一面も見られます。
□花苺 ここみ(はないちご ここみ)
❝ここみん☆のスペシャルライブ 始まるぷにょ~⁉❞
(引用/はまじあき.『きらりブックス迷走中!』第1巻.芳文社.2016年.17頁)
きらりやふわりと同じく鳴草書房で働くアルバイト。きらりとふわりより一つ年上の高校2年生で書店の宣伝を担当しています。
大家族で貧しい家庭を救うべくアイドルを志望しており、店内でライブを披露することもありますが、活動中の語尾や「こんぺい糖星」からやって来たという設定から感じられる通り所謂「電波系」です。
大家族故に自分だけの部屋がなく押し入れ内でボイストレーニングを行う苦労人であり、アイドルとしての活動も思うように成果が出ていないようですが、体力づくりのため「ランニング2キロ、筋力トレーニング30回」のセットを毎日3回こなすなど逆境にめげないストイックさを持ち合わせています。
そんな彼女ですが、アイドル活動外では男性のような口ぶりになり、きらりの突飛な行動にも冷静な指摘を入れるなど常識人としての立ち振る舞いを見せます。
□桐生院 えりぃ(きりゅういん えりぃ)
❝…2万冊ほど注文するから全部買ってね❞
(引用/はまじあき.『きらりブックス迷走中!』第1巻.芳文社.2016年.27頁)
きらりの従姉妹で彼女たちが働く鳴草書房の店長。11歳にして米国の有名大学を飛び級で卒業する天才少女です。
知名度の低いゆるふわ革命をプッシュするきらりを咎める利益主義であり、元々特徴がなく閉店寸前だった鳴草書房を同人誌やアニメグッズなどを並列して取り扱うことで経営的に立て直すなど、若年ながら経営者として有能であることが伺えます。
そのような生い立ち故か11歳とは思えぬほど大人びている彼女ですが、入浴時はシャンプーハットを使用しているほか、サンタクロースの存在を信じているなど年相応な一面もあります。
また、きらりから溺愛されているようで自身を子ども扱いする彼女を冷たくあしらってはいますが、内心では満更でもない様子です。
こんな方にオススメ
□勢いのあるコメディが好みの方
□世間的に認知度の低い作品のファンになった経験のある方
【キーワード】「日常」「高校生」「本屋」「コメディ」「パロディ」
本作品は、女子高生たちの日常を描いた4コマ作品と「まんがタイムきらら」としてはオーソドックスな構成ですが、コメディ要素やキャラクター設定に注目すると「感銘を受けた作品を即座に一万冊注文しようとする主人公」「11歳で米国の有名大学を飛び級で卒業し書店を経営する主人公の従姉妹」など豪快な描写や設定が魅力です。
また、物語の主軸として知名度の低い漫画作品のファンになった主人公が作品の魅力を世間に知れ渡らせるために奮闘する様子が描かれています。
作品の魅力を伝える際につい熱が入り過ぎてしまうほか、売り上げに貢献するべく一人で何冊も購入するなど、主人公と同じく知名度の低い作品のファンになった方にとって共感できる描写が多いのも特徴です。
著者であるはまじあき氏は、2022年に大きな話題を呼んだ『ぼっち・ざ・ろっく!』(芳文社)も描いており、当作品で評価されたコメディ要素の出発点ともいえる本作品は、当作品をきっかけに氏のファンになった方にとって氏の描く漫画の作風への理解を深められる貴重な作品でもあります。
全2巻という揃えやすさを含めて是非読んでいただきたい作品です。
感想(ネタバレ含む)
□コンテンツに興味を持ち始めた頃の情熱を思い出させてくれる主人公の姿
本作品は、お世辞にも知名度が高いとは言えないゆるふわ革命のファンになったきらりが、作品の魅力を世間に知れ渡らせるために奮闘する様子を物語の主軸に据えています。
ファンとしての経歴は決して長くはない彼女ですが、だからこそなのでしょうか、好きなものに真っ直ぐな情熱を向ける彼女の姿に、かつて「きらら」を好きになり始めたばかりの頃の過去の自分が重なり哀愁を感じました。
次々と生産されるコンテンツ、環境や価値観の変化、現代において「一つの作品を好きでい続ける」というのは難しいように感じられ、月日が過ぎるにつれて作品に出合ったばかりの頃に持っていたはずの情熱も忘れかけてしまうものですが、本作品の描くきらりの行動の数々はそんな「無くしかけていた情熱」を再び思い出させてくれます。
多くの作品に触れるうちになまじ知識が付いてしまった結果、新しい作品もどこか達観視してしまい以前ほど素直に楽しむことが出来なくなったと感じていた今日この頃でしたが、本作品を読み返していて上手く言語化はできませんが何か大切なことを思い出せたような気がします。
最初に読了した際にはきらりのお嬢様ゆえの規格外の行動の数々に笑みをこぼすコメディ色の強い作品という印象を持っていましたが、日が空いた今読み返すと上記のような違った印象を受けました。本記事の執筆は、既に読み終え内容を知っているはずの作品でも価値観の変化とともにその見方も変わるという学びを得る良いきっかけにもなりました。
印象的な場面・台詞
❝たとえ知名度がなくても面白い本をオススメするのが 書店員の仕事だと思うんです…!❞
(引用/はまじあき.『きらりブックス迷走中!』第1巻.芳文社.2016年.28頁)
本作品を象徴するようなきらりの台詞。私は書店員の経験はありませんが未映像化作品を中心に紹介する当ブログの管理人として勝手にシンパシーを感じた台詞としても印象深いです。私の様なニッチャー的思考からではなく作品への純粋な愛から推奨を行う彼女の姿は非常に眩しく映ります。
小ネタ・余談
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら 200号記念特別付録小冊子
2020年7月号にて200号を迎えたまんがタイムきららを記念した特別付録に本作品も掲載されました。「ここみん凱旋ライブ”feat ギターヒーローさん”」と題し、ここみと氏の作品である『ぼっち・ざ・ろっく!』(まんがタイムきららMAX)の後藤ひとり(ごとう ひとり)の共演を披露してくれました。
□『ぼっち・ざ・ろっく!』での出演
はまじあき氏の次回作である『ぼっち・ざ・ろっく!』(まんがタイムきららMAX)には本作品に登場した「ゆるふわ革命」が登場しており、氏のファンにとっては嬉しい出演となっております。
当作品の単行本第1巻68頁の描きおろし漫画では伊地知虹夏(いちじ にじか)たちがゆるふわ革命のアニメを視聴する様子が描かれています。
本作品では「きらり系」と若干濁した表現だったのに対して当作品では「きららアニメ」と直接的な名称で記されているほか、「社会に疲れた大人が見るアニメ」と評されているなど前作から過激さを増したパロディが笑いを誘います。単行本限定の描きおろし漫画だからこそできる芸当なのでしょうね。
また、第2巻38頁では清水イライザ(しみず イライザ)がゆるふわ革命と思われる作品が表紙を飾る「まんがタイムきらりMAX」を手に持つ場面が存在します。こちらはよく見るとしっかり「きらり」になっています。
TVアニメでは『スローループ』(芳文社/著者:うちのまいこ)に登場する海凪ひより(みなぎ ひより)と海凪小春(みなぎ こはる)のキーホルダーに差し替えられており話題を呼びました。
□「承認欲求モンスター」のプロトタイプ?
本作品の単行本第1巻の本扉では様々な衣装に身を包んだきらりたちが描かれおり、その中でふわりは怪獣の着ぐるみを着ているのですが、その姿が『ぼっち・ざ・ろっく!』に登場しその愛くるしさからグッズ展開もされた「承認欲求モンスター」に酷似していることから当キャラクターのプロトタイプなのではないかとまことしやかにささやかれています。
偶然だと思われますが両者には桃髪碧眼という共通点があります。
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最後に
今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。
『ぼっち・ざ・ろっく!』をきっかけにこの作品にたどり着いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。魅力ある作品なのですが作中のゆるふわ革命のようにアニメ化とはいかず2巻乙してしまったことが悔やまれます。
長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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