作品概要
❝つまりだよ 逆立ちで人は釣れる…❞
(引用/有馬.『はんどすたんど!』第3巻.芳文社.2018年.117頁)
『はんどすたんど!』は、著者である有馬氏による4コマ漫画作品です。(全3巻)
『まんがタイムきららMAX』(芳文社)にて、2015年6月号・8月号でのゲスト掲載の後、2018年9月号まで連載されていました。
本作品は、北海道の高校を舞台に体操部に所属する少女たちの日常を描いた作品です。公式サイトの作品紹介でも触れられているように、登場人物たちによって繰り広げられる息の合った掛け合いが魅力のコメディテイストな作品になります。
コメディ寄りの部活動漫画というと肝心の部活動要素がなおざりにされがちなイメージがありますが、本作品は部活動要素もしっかりと描かれており、ハイセンスなコメディと部活動作品としての主人公たちの成長の両方を楽しむことができます。
ここでは、本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。
あらすじ
とある北海道の高校で繰り広げられる、体操部の女の子たちの物語! 真面目が過ぎる部長のゆか、運動が出来なさ過ぎるいちご、ネガティブ過ぎるひなた、ちんちくりんで言動が特徴的過ぎるななみ。 新進気鋭の有馬が描く、毎秒笑える体操部4コマ、開幕です!
引用:http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=1197/2023年7月18日閲覧
主な登場人物
□新城 ななみ(しんじょう ななみ)
❝やろう!逆立ち部!❞
(引用/有馬.『はんどすたんど!』第1巻.芳文社.2016年.12頁)
小学生と見間違えられるほどの幼児体型と、大きく開いた口が特徴の本作品の主人公。
入学して早々校内で迷子になっていたところ、人気のない場所で「倒立」をしていた後に紹介する真白ゆか(ましろ ゆか)と偶然出会います。そこで彼女が「体操部」を自ら設立しようとしていることを知り、その場で披露してもらった「後方回転倒立飛び(通称バック転)」の格好の良さに感化され体操部に入部することを決心します。
中学生時代は陸上部に所属していたこともあり運動能力は平均以上で、体操初心者でありながら「伸膝前転」を一度で成功させるなどその運動センスには光るものがあります。しかし、後述する本人の性格が表れているのか動きは勢い任せで全体的に雑であることが作中でも指摘されています。
性格面は、休日に開かれた部員同士の集まりで盛大に寝坊するほか、初の大会出場でシャツを表裏前後を逆にして着用するなど非常にマイペース。また、考えたことは後先考えずに実行するなど、マイペースな性格と相まって作中での部員同士の掛け合いの発端になることが多いです。
下らない事を大袈裟に話す様子やその口調からそこはかとなく感じられる「オヤジ臭さ」と本人の幼児体型は非常にギャップがあり、本作品を読めば彼女の顔が忘れられなくなること請け合いです。前述の掛け合いを含めて本作品を象徴する人物です。
余談ですが、学業面では現代文や地理等の文系科目が得意なようで彼女の語彙力の豊かさの裏付けでもあるのでしょうね。
□真白 ゆか(ましろ ゆか)
❝昔からどうしてもこういう時に緊張するクセが抜けなくて…❞
(引用/有馬.『はんどすたんど!』第1巻.芳文社.2016年.90頁)
金髪のショートヘアーと碧眼が特徴の少女。
中学生時代、体操部に所属していましたが進学先の高校では体操部が存在しなかったため、入学後に自ら体操部を立ち上げ部長を務めます。
中学生時代に所属していた体操部は強豪であったことから経験豊富であり、また部内唯一の体操経験者であることから作中では技等の解説役になることが多いです。
真面目な性格で体操未経験者であるななみたちにも優しく丁寧に指導するなど面倒見の良さが見られます。しかし、その真面目さゆえにななみの出鱈目な言動にも一度真剣に返答した後にツッコミを入れてしまうなど、他の部員の言動や行動に振り回されがちです。
このように部員内では比較的常識人ポジションであり部員同士の掛け合いに参加することも少ないため、本作品における「箸休め」的なキャラクターだといえます。
作中では部長を務める彼女ですが、実は重要な場面で上がり症になってしまうようで、中学生時代では実力がありながら大会でのレギュラーメンバーを決める試技会になると緊張から本来の実力を発揮できず、一度もレギュラーを獲得できなかったという苦い経験があります。
尚、私生活の面では休日は殆ど寝て過ごしているようで、授業中に寝る様子も見られるなど真面目な性格に反して以外にも抜けている面もあります。
□乙宮 いちご(おとみや いちご)
❝下の名前で呼ばないでくれる? 乙宮でいいから❞
(引用/有馬.『はんどすたんど!』第1巻.芳文社.2016年.15頁)
名前の可愛らしさに反して気が強くツンデレ気質な少女。
体操は未経験であり、自他ともに認めるほどの運動音痴でありながら体操部に入部することを決めたのは、体操部を「ラジオ体操」をする緩い部活だと勘違いしたためと知識面も皆無です。
しかし、自身の勘違いから入部してしまったとはいえ入部以来、毎日柔軟を続けているなど努力家な一面もあり、学業面では全教科で学年成績1位を修める秀才でもあります。
前述の台詞にも表れているように入部当初は「ツン」が目立つ彼女ですが、ななみたちと関わっていく中で角も取れ徐々にななみと息の合った掛け合いも見せるようになるなど、彼女の内面の変化は本作の見どころでもあります。
□晴沢 ひなた(はるさわ ひなた)
❝は…晴沢です…どちらかというと曇天だし ひなたというより日陰ですが…❞
(引用/有馬.『はんどすたんど!』第1巻.芳文社.2016年.15頁)
高身長で腰まで届くロングヘア―が特徴の少女。
いちごと幼馴染であり、彼女と同時に体操部に入部しました。気の強い彼女とは対照的に、大人しくネガティブ志向な性格です。
ななみやいちごと同じく体操経験はありませんが、心配性な両親の影響で防災訓練の一環で家族一家で山登りや川下りを行ってきたため運動能力は比較的に高いです。
前述の心配性な性格は日常生活や部活動にも表れており、種目の平均台では「台の下はマグマの海」という設定で行うなど、その心配性は盲信の域にまで達しています。
しかし、競技中の失敗を極度に恐れているがゆえに初の大会出場でも平均台で落下をしなかったなど、その心配性は良くも悪くも彼女の演技性にも影響しています。
また、ブランケットや洋菓子を自作するなど、編み物や料理が得意と年相応の少女らしい一面も見られます。
□富士崎 あまね(ふじさき あまね)
❝誰も表影台に上がれって言ってるわけじゃない❞
(引用/有馬.『はんどすたんど!』第1巻.芳文社.2016年.75頁)
ななみたちが所属する体操部の顧問を務める女性教師。
無口でクールな印象を受ける彼女ですが、体操初心者であるななみたちの成長度合いに合わせた指導を行うなど、生徒に寄り添うことが出来る心優しい教師です。
初の新人戦での跳馬にて踏切が上手くいかないななみを見て、原因は跳び過ぎだと即座に判断して本番中に跳馬からロイター板(踏切板)までの距離を離すように進言するなど、その洞察力の高さから普段から部員達のことをよく見ていることが伺えます。
ゆかと同じく部内では常識人ポジションであり落ち着きのある顧問らしいキャラクターです。
こんな方にオススメ
□往年のきらら作品にみられた「ゆるめな部活動描写」に加えて、「パンチの効いたコメディ」を求める方
【キーワード】「日常」「高校生」「コメディ」「体操」
本作品は、作品概要でも触れたように「きらら」らしい温かみのある部活動要素を残しながら、登場人物たちの織り成す掛け合いが強烈な印象を与える作品です。
それでいて、そういったコメディ要素は「きらら」らしさを邪魔するものではなく、キレがありながらもどこか温かな印象を受け本誌の雰囲気とも上手く調和しています。
作中の誰もが「ボケ役」でもあり「ツッコミ役」でもある彼女たち息の合った掛け合いは、良い意味での「内輪ノリ」のような心地良い雰囲気を感じさせ、独特の中毒感に陥ること必至です。全3巻という揃えやすさも含めて是非読んでいただきたい作品です。
感想(ネタバレ含む)
※2024年6月9日追記
□見習うべき主人公たちの「初心者」としての在り方
所謂「部活動モノ」である本作品。未経験者を主人公に据え、その成長を物語にする王道なスタイルを取っていますが、本作品はその中でも「初心者の在り方」を丁寧に描いていると感じました。
ななみたちの自身が初心者であることを十分に理解し、熟練者を前にして謙遜することはあっても決して卑屈にならず臆せず挑戦していく姿勢、他者の技能を称賛できる素直な気持ちは是非見習いたいです。
SNSが普及した現代、何か新しく物事を始める際に、気軽にその界隈の著名人の姿を見て学ぶことができるようになった反面、余りにも大きすぎる自身との「差」につい弱気になり、早々に意欲を失うケースも増えました。最初に持つ目標が高すぎるのも考え物です。
どうしても「結果」ばかりが目に付くSNS、一朝一夕でその地位に上り詰めたように見える周囲の人間にも、本作品のななみたちのような「初心者」の時代があったはずです。
空ばかり見上げていては上手く前を歩けないように、ななみたちのように目の前にある課題を一つずつ確実にこなして高みを目指していきたいですね。
初心者の微笑ましい成長過程を描いた本作品ですが、氏の次回作である『エイティエイトを2でわって』では打って変わって、挫折を経験した熟練者を主役に据え、その復帰までの過程を描いています。「好きで始めたことなのに好きなだけでは続けられなくなる」ななみたちにもいつかこういった葛藤と向き合う日が来るのでしょうか。
□上質な掛け合いの応酬の中で進行する主人公達の緩やかな成長物語
本作品は登場人物たちのクセになる掛け合いにばかり目が行きがちですが、それと並行して体操部員として成長する主人公たちも本作品の魅力であると感じます。
柔軟もままならなかった所から始まり、数々の経験や実戦を経て大会にて花開く姿にはコメディ漫画であることを一瞬忘れて見入ってしまいました。
主人公の才能が突然覚醒するなどといったこともなく、失敗を重ねながらも地道に練習を続けるコメディ漫画らしからぬ堅実な部活動描写には好感が持てます。
また、大会の成績も初出場の大会の団体戦は出場校5校の内の5位、続く新人戦では4位、また、作中の最後に参加した大会は全国大会などではなく「市民大会」であるなど、競技のシビアさとこの先に続く選手としての道の果てしなさを感じさせます。
あっさり優勝するのも何だかしらけちゃいますし良い塩梅だと思います。
印象的な場面・台詞
❝馬跳びで喜んでる場合じゃないな!!!❞
(引用/有馬.『はんどすたんど!』第1巻.芳文社.2016年.48頁)
ゆかが他の部員達の前で転回を披露する場面。前ページにて極度の運動音痴であったいちごが初めて馬跳びを成功させて歓喜に満ちていた直後の出来事であり、上記のななみの台詞と相まって直前の感動が一瞬にして台無しになる残酷な展開には笑いをこらえきれませんでした。
□各巻の最終話について
本作品の13、26、39話は部室内での雑談が話の主軸になっています。単行本では各巻の最終話に当たるのですが、他作品では物語が大きく動く転換期になることも多いこのタイミングで部室内の雑談を主軸に据える大胆さは、本作品があくまでコメデイ寄りだという気概を感じさせます。
小ネタ・余談
※2024年5月3日追記
□まんがタイムきららMAX200号記念特別付録冊子
2021年6月号にて通巻200号を迎えたまんがタイムきららMAX、当誌に付属した特別付録冊子に本作品も掲載されました。
完結から約3年ぶりの登場ですが、記念冊子でも相変わらず部室で雑談をしているだけのななみたちの姿に懐かしさを覚える読者もいたのではないでしょうか。
□ななみの口元の描写
飲食やマスクをするとき以外、常に口を開けた描写をされるななみ、第1巻の41ページでも触れられたこの性質ですが、初期は構想が固まっていなかったのか第1話では口を閉じる貴重な彼女の姿が見られます。
氏の次回作である『エイティエイトを2でわって』の主人公、藤田美弦(ふじた みつる)も口を開けた姿が特徴的ですが、ななみのように四六時中開けているという風にはなりませんでした。性格はななみに近いはずなのに、開口頻度が下がるだけで一気に常識人感が増したように感じられます。
無料で読める公式サイト
最後に
今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。
今回で第3回目となる作品紹介ですが、これまでの作品は全て『まんがタイムきららMAX』からの作品であることに記事を書き終えてから気が付きました。掲載年も平成後期の作品が多いため、次回は『まんがタイムきららMAX』以外からもう一世代前の作品を紹介する予定です。
長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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