作品紹介(きらら)

【作品紹介】第18回「しゅばりえーる」(著者:だいせ)

作品概要

❝騎士とは戦場の華! そう…そして女子騎士とはこの世でもっとも美しき乙女の姿!❞
(引用/だいせ.『しゅばりえーる』第1巻.芳文社.2015年.13頁)

『しゅばりえーる』は、著者であるだいせ氏による4コマ漫画作品です。(全2巻)

『まんがタイムきらら』(芳文社)にて、2014年1月号・2月号・3月号でのゲスト掲載の後、2016年2月号まで連載されていました。

本作品は、英仏百年戦争時代である15世紀のフランスを舞台に「女子騎士」を目指す少女たちの日常を描いた作品です。

「異世界」を舞台にした作品が流行してから久しいですが、本作品は現実のフランスが舞台と比較的珍しい設定が特徴です。

著者であるだいせ氏は「ジャンヌダルク」や「中世騎士」といった「英仏百年戦争時代」に造詣が深く、作中では当時のフランスにまつわる様々な歴史的要素が描かれており、漫画作品として物語を読み進めながらフランスの歴史について気軽に学ぶことができます。

ここでは、本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。



あらすじ

時は15世紀フランス、英仏百年戦争時代。田舎の貧乏貴族の娘・セリーゼは、仕事を求め都へ旅立つ。道中で偶然手にした特大剣(ツヴァイヘンダー)と、都で出会った少女たちに導かれ、セリーゼは『女子騎士』になることを決意する。初めて見る剣や鎧、都での生活、女子騎士学校での授業…セリーゼにとっては何もかも新鮮で刺激的!同じ夢を目指す仲間とともに過ごすキラキラな毎日、第1巻!

引用/http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=988/2023年11月12日閲覧



主な登場人物

セリーゼ
❝よーし 私が連れてってあげるよー!一緒に行こうサリアへ‼❞
(引用/だいせ.『しゅばりえーる』第1巻.芳文社.2015年.11頁)

本作品の主人公。料理人になるべく都サリアに向かう道中にドイツ製の両手剣「ツヴァイヘンダー」を偶然手にするところから物語は始まります。

本人曰く田舎の貧乏貴族の出であり、資産家との縁談もあったもののそれを断り単身サリアにやって来たという経緯があります。料理人志望なだけあって騎士や武具に関する知識は皆無で、当初ツヴァイヘンダ―のことも大きな包丁くらいにしか認識していなかったほど。

しかし、サリアで出会った女子騎士を志すサツキとヴィオレットに出会い、女子騎士になれば富と名誉が手に入り貧乏生活から脱却できると知るや否やあっさりと女子騎士の道へ転向することになります。

光沢のあるものに惹かれるようで武具を可愛いと評し個別に名前を付ける独特の感性を持っています。

一見すると能天気な印象を受ける彼女ですが、全長約1.5m、重量は3㎏にも及ぶツヴァイヘンダーを片手で軽々と振り回すほどの怪力を有しており、偶然とはいえ女子騎士学園のホープと謳われるジャスマから手合わせで一本取るほか、初の実戦でも咄嗟に剣の平面部分で峰打ちするなど戦闘に関して天賦の才を感じさせます。

奇しくも「ジャンヌ・ダルク」と同じ文盲でもあります。名前の由来はフランス語で桜を意味する「スリズィエ」

サツキ
❝母なるフランスに美しく咲き誇る気高きフルールの騎士!!あたしの名はひとよんで深紅のローズ!!!❞
(引用/だいせ.『しゅばりえーる』第1巻.芳文社.2015年.21頁)

深紅のマントと胸元の薔薇が特徴的な少女。言動はキザで周囲には自身のことを「ローズ」と呼ばせたがるナルシストな一面が目立ちます。

彼女もまた女子騎士を志しており、街中で特大剣を引きずりまわすセリーゼを女子騎士志願と勘違いして声を掛けたのをきっかけに学校生活を共にする仲間になります。セリーゼとは違い裕福な貴族の出で彼女の作る料理に舌鼓を打つなど美食家でもあります。

得物は刺突に特化した特注ロングソード「カリブール」しかし、自身の背丈ほどの全長を誇るこの剣を扱いきれていないようで抜刀などに苦労する様子も見られます。

一般的なロングソードでなら元来の俊敏性を生かし自他ともに認める強さを発揮できるにもかかわらずカリブールに拘るのは、同じロングソードを扱うジャスマに敗れたことで限界を感じたため。

ナルシストではありますが、お調子者でもあり更にはぎっくり腰を抱えているなど、どうも格好のつかないその様子はキザな言動とは裏腹に親しみやすさを感じる人物であります。

しきりに自身を薔薇を意味する「ローズ」と呼ばせたがる彼女ですが、名前の由来は日本を原産地とするツツジ科の植物「皐月(さつき)」です。

ヴィオレット
❝剣と盾を同時に構えた時のバランス! 最高にカッコイイわ‼❞
(引用/だいせ.『しゅばりえーる』第1巻.芳文社.2015年.34頁)

セリーゼたちと同じく女子騎士を志す少女。仲間内では「ヴィオ」の愛称で呼ばれています。

武具への造詣が深く作中では主に登場する武具の解説を担っています。また、「剣と同時に構えた際のバランスが良い」という理由からプレートアーマーの存在により需要の減った盾を使用するほか、身に付ける武具には特注で装飾を施すなど武具に対しての拘りが強く、その熱意から解説の際には饒舌になってしまうことも。

ここで紹介する主要人物4名の中では唯一の盾の使用者であり、その防御力を生かして戦闘では味方の支援に回ることが多く、特に攻撃性に優れるサツキの隣に立った際には互いの欠点を補い合う抜群のコンビネーションを見せます。

そんなサツキに対してですが会話の節々から特別な感情を抱いていることが伺え、上記の件で彼女から「一心同体」と言われた際には頬を赤らめる様子も見られます。

名前の由来は菫(すみれ)の英名である「ヴィオレット」

ジャスマ
❝私は剣が嫌い…人を傷つける物だから…❞
(引用/だいせ.『しゅばりえーる』第1巻.芳文社.2015年.23頁)

サツキとヴィオレットの幼馴染の少女。本名が男性的という理由から仲間内では「ジャスミン」の愛称で呼ばれています。

祖父が高名な騎士であり厳しい稽古で培った剣技から周囲からは女子騎士のホープと称されています。

得物はスタンダードなロングソード。戦闘に関しては努力の賜物なのか相手の剣の動きに体が勝手に反応するほどまでに仕上がっており、ホープの名に恥じぬ実力の持ち主です。

剣を人を傷つける道具と忌み嫌う心優しい性格の持ち主ですが、実戦ともなれば臆せず敵に立ち向かうだけの覚悟を持ち合わせているほか、セリーゼとの初の手合せにおいて偶然とはいえ一本取られたことに悔し涙を見せる人間味のある一面も見られます。

そんな彼女ですがセリーゼの天然気質な愛嬌に惹かれたのか、彼女に対して過保護気味であるとヴィオレットから指摘されてしまうほか、彼女の顔が刺繍された抱き枕を愛用するなど彼女に対して並々ならぬ想いを抱いています。

名前の由来は茉莉(まつり)の英名である「ジャスミン」



こんな方にオススメ

中世フランスに興味はあるものの、膨大な文献に調べることが億劫になっている方
漫画を読みながら気軽に中世フランスの歴史に触れたい方

【キーワード】「フランス」「女子騎士」「英仏百年戦争」「微百合」

本作品の舞台は公式サイトのあらすじに記述されている様に「英仏百年戦争時代のフランス」であり、日夜イングランドと戦争を続ける中、祖国のため身命を捧げる「女子騎士」を目指す少女たちが主役と世界観だけに注目すると非常にシビアなものであるといえます。

しかし、本作品ではフィクションである「女子騎士」を主役に据え、彼女たちの女子騎士学校で送る日常を物語の主軸とすることで戦争の陰惨さをいくらか緩和しており、「戦争」と「萌え4コマ漫画」という相反するテーマを見事に両立させています。

創作物で目にする機会が多いものの、いざ調べるとなるとその文献の多さに萎縮しがちな「ジャンヌ・ダルク」や「中世騎士」といった歴史ですが、本作品ではそれを「萌え4コマ漫画」に仕立てることで取っ付き易くしており、漫画作品として気軽に物語を楽しみながら自然に中世フランスの歴史に触れることができるような作りになっています。

中世フランスの歴史を知る口開けに適した本作品は、全2巻という揃えやすさも含めて是非読んでいただきたい作品です。



感想(ネタバレ含む)

萌え4コマ漫画というプラットフォームを生かした易しい歴史解説

私事になりますが、高校生時代に社会科目で地理を選択していた私は、大学受験を控える高校生特有の焦燥感と効率主義に駆られ「受験には必要ないから」と世界史の授業では英単語帳を開く日々を送っていました。

当然、授業内容は記憶に残っておらず、当記事を執筆するにあたり中世フランスについて調べるまで「女子騎士」は実在し、フランス革命によってギロチン処刑を執行されたのは「ジャンヌ・ダルク」(史実は「マリー・アントワネット」)であったと勘違いしていたほどで、気楽に漫画紹介をするはずが自身の教養の無さを痛感させられることになりました。

しかし、そんな私にとって中世フランスを女子騎士というフィクションを交え、萌え4コマ漫画に落とし込んだ本作品のマイルドな歴史解説は丁度よい塩梅であり、説明量の少なさが却って読了後に中世フランスへの知的好奇心を掻き立てることとなりました。

マイルドと言っても随所で描かれる豆知識などは4コマ漫画の長所を生かし視覚的にも分かりやすく解説されており、全体の情報量も当時のフランス情勢を大まかに捉える分には十分な量だといえます。

こういった描写からは氏の拘りや中世フランスへの造詣の深さが感じられ、セリーゼが着用したプレートアーマーが掲載誌が掲載誌なだけにもう少し可愛らしく描いてもよかったものを史実に則った硬派なデザインであったことも好印象でした。

そこはかとなく感じる戦争のシビアさ

全体的に戦時中であることを感じさせないほど温かみのある作風が特徴ともいえる本作品ですが、祖国のため命を懸けて戦場に赴くことを当然のように語る一部登場人物たちの価値観、初戦闘後の恐怖から思わず涙をこぼす主人公の姿など戦争の厳しさを要所要所で描いております。

こういった描写は本作品の舞台が紛れもなく英仏百年戦争であることを思い出させ、物語を読み進めるにあたっての良いスパイスになっていると感じます。下記の項目でこのことを強く感じた場面を紹介したいと思います。



印象的な場面・台詞

❝実戦でこそ学ぶものが多いからな❞
(引用/だいせ.『しゅばりえーる』第1巻.芳文社.2015年.59頁)

女子騎士学校にて現在のフランスがイングランド軍との対立を始め多くの脅威にさらされていることを学んだ後、丘から都を一望しながらその日の講義を振り返り「女子騎士は可愛い」と語るセリーゼにサツキが放った一言。

祖国のために身命を捧げることをさも当然のように語る彼女の姿からは戦争が生む狂気を感じさせられ、直前のセリーゼの能天気な一言に漫画的な優しさを感じていたところを一瞬にして現実に引き戻されたような感覚を覚えました。

よく見るとジャスマだけは眉を顰め不快感をあらわにしているのも印象的です。



小ネタ・余談

※2024年9月1日追記
まんがタイムきらら コミックマーケット86企画本 センターをめざせ!KRR48

本作品は2014年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット86にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット86企画本 センターをめざせ!KRR48」に掲載されました。

アイドルがテーマとなっており、セリーゼたちが甲冑を着たまま歌って踊ろうとするも、その重さに断念するという内容でした。

※2024年9月1日追記
まんがタイムきらら コミックマーケット88企画本 アプリゲーム!!

本作品は2015年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット88にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット88企画本 アプリゲーム!!」に掲載されました。

アプリゲームがテーマとなっており、セリーゼたちがRPGをプレイするという内容でした。世界観的にモチーフの対象側の彼女たちがRPGをプレイするのはなんとも奇妙な光景です。

リースの名前の由来

作中に登場する鍛冶屋のリースですが、本作品の作風から名前の由来はフランス語で百合を意味する「リス」だと思われがちですが、彼女の正式名は「ヴォリュビリス」であり由来は「アサガオ」であることが氏のブログで語られています。



無料で読める公式サイト

※2023年11月19日現在、試し読みのみ



最後に

今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。

季節はすっかり冬ですね、某アニメよろしく秋はどこへ行ってしまったのかと感じる日々です…2023年も残すところあと僅かというところまで来ましたが、漫画紹介も今回で18回目を迎えるということでなんとか年内に切り良く20作品目まで投稿したいと思っています。

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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