作品紹介(キューン)

【作品紹介】第19回「ニー子はつらいよ」(著者:アルデヒド)

作品概要

❝今日も今日とて私はニート…食う寝る悩むの毎日…❞
(引用/アルデヒド.『ニー子はつらいよ』第1巻.KADOKAWA.2018年.6頁)

『ニー子はつらいよ』は、著者であるアルデヒド氏による漫画作品です。(全6巻)

『コミックキューン』(KADOKAWA)にて2017年10月号から2021年2月号にかけて連載されていました。

本作品は、紆余曲折あり大学卒業後にニートになってしまった主人公「ニー子」が社会に復帰するまでの日常を描いた作品です。

ニートである主人公の世間での生きづらさや彼女の両親を始めとした周囲の現実味のある接し方などをコメディ調に仕上げることで、「ニート」という社会問題に明るく切り込んだストーリーが特徴です。

ここでは、本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。



あらすじ

ニコニコ静画総閲覧数300万超え!webで人気爆発中の『ニー子』シリーズが、待望の連載化!働かなきゃいけない、でも働きたくない・・・。ダメかわいいニート女子の、ツラくて楽しい(?)日常コメディ!

引用:https://comiccune.jp/series/neeko//2023年11月26日閲覧



主な登場人物

ニー子
❝なんだろう私だけ 前に進めてない…❞
(引用/アルデヒド.『ニー子はつらいよ』第1巻.KADOKAWA.2018年.12頁)

本作品の主人公。大学4回生までは順風満帆な生活を送っていたものの、就職活動中に受けた圧迫面接がトラウマとなり就職浪人になってしまいます。

所謂「ニート」であり、そのせいもあってか自己肯定感が非常に低く、有りもしない他人の目線や噂話に怯えているなど自意識過剰かつ人間不信に陥っており、外出や人込みを避け自宅に引きこもりがちになってしまっています。

社会的な立場の弱さに加え、母親からのプレッシャー、後に紹介する優秀な妹の存在により家庭内では肩身の狭い思いをしています。

現状を打開するべきであることは十分に理解しつつも前述のトラウマからスーツを着ると腹痛を催す体質になってしまいアルバイトの面接も億劫に感じるように。持て余した時間で動画編集などの創作活動やソーシャルゲームにいそしむ日々を送ります。

そんな彼女ですが、学生時代はオタク仲間を牽引するリーダーであり、思ったことを包み隠さない子どもっぽさが感じられるものの、時折見せる要領の良さから友人からも信頼を集める人物でした。

本名は新戸眠子(にいと ねむこ)

いも子
❝でも全然恥ずかしくなんてないよ‼ 姉ちゃんはホントは優しいし頼りがいあるし!何より家族だから‼❞
(引用/アルデヒド.『ニー子はつらいよ』第3巻.KADOKAWA.2019年.57頁)

ニー子の妹。姉であるニー子を家族として心から尊敬しており、彼女に付けてもらったニックネームである「いも子」を大切にしています。

容姿端麗、文武両道、それでいて性格も快活で誰に対しても分け隔てなく接する正に絵に描いたような人格者であり、ニートとなってしまった姉に対しても以前と変わらない態度で接します。

しかし、冒頭にてニートである姉に先んじてアルバイトを始めるほか、彼女の目前で学校の友人に彼女がニートであることを堂々と宣言するなど、裏表のない性格故に無自覚にニー子を苦しめてしまうことも。

また、非常に下戸で甘酒一杯で酔いが回ってしまい目に付く女性を手当たり次第に口説くプレイガールに変貌した際には、ニー子に対して「行く当てがなくなったら自身が養う」と言い放つなど、酔っていた最中の発言とはいえニー子に対する愛情は並々ならぬものであることが伺えます。

本名は新戸ひかり(にいと ひかり)

お母さん
❝ニートがバイトで週1はないんじゃないかしらね~?❞
(引用/アルデヒド.『ニー子はつらいよ』第1巻.KADOKAWA.2019年.114頁)

ニー子の母。専業主婦であり、ニートである娘のことを心配し世話を焼くものの焦燥感からつい辛辣な物言いになってしまうことが多い人物。

後に紹介する夫と比較すると問題解決を急ぐ節があり、ニー子の大学生時代の友人と秘密裏に結託し半ば騙すような形で彼女がアルバイトをせざる負えない状況を作り出すなど少々強引な手段を取ることも。

しかし、娘を想う気持ちは本物であり厳しい物言いになるのも彼女が就職活動に億劫になった原因が圧迫面接であることを知らなかったからでもあります。

親である手前か、時折見せるニー子からの素直な感謝に帆を赤らめるも素直になりきれない一面も見られるなど、総じて典型的な専業主婦もとい母親像で描かれている人物という印象を受けます。

お父さん
❝…あのゲームはやらないのか?「がちゃ」とかいう……押してやるぞ❞
(引用/アルデヒド.『ニー子はつらいよ』第1巻.KADOKAWA.2019年.75頁)

ニー子の父。寡黙で冷静な人物でありニー子のことも一歩引いた位置から優しく見守ります。

父親として年ごろの娘と関わりたいのか、ニー子に個人的に小遣い渡すなど甘やかしてしまう様子が見られます。

自身の勤める会社では管理職を務めるだけあってかニー子の社会復帰に関しても慎重であり、そういった意味では気の早い妻と合わせてバランスが取れていると感じます。

一家の大黒柱らしく落ち着きがあり、作中では一貫してニートであるニー子に寄り添った立ち位置であることからニー子にとっても彼女と同様の悩みを抱える読者にとっても安心感を与える人物だといえます。



こんな方にオススメ

ニート、就職浪人などの経験がある方
就職を目前に控える学生の方

【キーワード】「日常」「社会人」「コメディ」「ニート」「人生観」

「ニート」である主人公ニー子の生き様をコメディ調で面白おかしく描いた本作品。持て余した時間で創作活動に勤しむ、なまじ実家が裕福なためいまいち危機感が持てないといった生々しい「ダメ人間あるある」を美少女が演じることでエンタメに昇華させており気楽に楽しむことができます。

対岸の火事と言いますか、誰の身にも起こりうる問題であるはずなのにニー子の愛嬌相まって読者目線でも緊張感が持てない緩い作風で、厳しい社会問題を取り扱いながら誰も傷つかない絶妙な塩梅です。

とは言うものの、ひとたび美少女というフィルターを外せば同じような経験がある筆者から見ても非常に心苦しくなるようなリアリティのある描写も多く、一口にコメディ作品と片付けられないものがあります。

ニート・就職浪人経験者は「こんなこともあった」と懐かしみ、就職を控える学生は「こうはならない」と反面教師に、場合によってはその両方を、立場によって受け取り方が変化する味わい深い作品です。

全6巻という揃えやすさも含めて是非読んでいただきたい作品です。



感想(ネタバレ含む)

同様の立場になったことで理解できた、ニー子とその周辺を取り巻くリアリティー

私が本作品を手にしたのは学生の頃であり、当時はコメデイによってオブラートに包まれたニートの有様をエンターテインメントとして他人事のように楽しんでいましたが、実際に自身が同様の立場に立ったことで、これまで目にしてきた描写の繊細さを身に染みて感じたという経験から非常に印象深い作品です。

プロフィールや固定ページでも記載していますが、私は大学卒業後に教諭として赴任した学校で受けた保護者からのモラルハラスメントなどが原因となり当記事の執筆現在では休職中の身であります。当時、一人で借りていたアパートからも離れ、現在は実家で家族と暮らしながら療養中であり、復職と転職の二つの選択肢の間で揺れ動く日々を送っています。

本作品で紹介したニー子とは経緯や状況こそ異なるものの、社会的に弱い立場にあり、現状のままではいけないことを頭では理解しつつも心と体が追い付かない様子などは現在の自分と重なり本質的な部分で共感できたと同時に、そんな私から見ても作中で描かれるニー子の心理描写や家族との関係は現実に即したものであるという印象を受けました。

作中のニー子の行動一つとっても、現状への焦りや不満、持て余した時間を動画編集などの創作活動へと「昇華」しようとした彼女の防衛機制は、今こうして記事を執筆している私にも当てはまり、著者の未就業者への理解の深さを感じました。学生時代に児童・生徒のためにと履修した心理学をまさか己自身で再現することになろうとは当時の私は夢にも思っていなかったでしょう。

兎にも角にも手に職付けてほしいと前のめりになるニー子の母、専業主婦であり家族の中では最もニー子のそばにいるが故に彼女の働きたくても働けない内面的な問題以上に生活面での自堕落な様子が目に付き、つい辛辣な対応を取ってしまう様子も家庭内での立ち位置を上手く反映した描写だと感じます。

上記の描写は、実家に帰省した直後は心身を心配してくれた私の母が時間の経過とともに休職に至った原因が職場ではなく私の性格に問題があるのではないかと疑い始めたことを思い出させ、生活を共にすることで見つかる粗は相手視点では原因を邪推する材料になってしまうことを第三者目線で理解することができました。

そして、本作品を読み進めるにつれて肉親にすら理解されないニー子のやるせなさに対するシンパシーは高まっていき、気が付けばニー子の肩を持つ自分がいました。

総じて質の高いコメデイ作品としてニートの実態を面白おかしく描きつつもその実、現実に即した繊細な描写であることから立場によっては二度楽しめる作品となっています。

MacKey
MacKey

ニー子に感情移入できてしまうことが嬉しくもあり悲しくもある…



お気に入りの場面・台詞

❝やめて… そんな目で 見つめないで… 私は…立派な大人なんかじゃない…❞
(引用/アルデヒド.『ニー子はつらいよ』第1巻.KADOKAWA.2019年.105頁)

自室で携帯用ゲーム機を見つけたのを皮切りに過去の品々を広げながら思い出に浸るニー子ですが、ふとした瞬間に現実に引き戻され散らかった部屋に一人佇む自分がいることに気が付き意気消沈する場面。

ゲーム機や卒業アルバムが散乱する中でランドセルを背負った成人女性が俯いている状況はあまりにグロテスクで脳裏に焼き付きました。ありもしない友人からの視線、追い詰められた時に限って蘇る順調だった頃の記憶など共感できてしまう事柄が多く非常にいたたまれなかったです。

全体的にコメディ色の強い本作品の中で珍しく明確なビターエンドであったこともあり印象深いシーンです。



小ネタ・余談

「いきのこれ!社畜ちゃん」とのコラボ

本作品の第4巻には『いきのこれ!社畜ちゃん』(KADOKAWA/原作:ビタワン、作画:結うき)とのコラボ漫画が収録されています。「ニート」と「社畜」という対極に位置する二人の主人公が入れ替わるという内容で両作品の作風を生かしたファン必見の内容となっております。

YouTubeチャンネル

本作品にはニー子がVtuberとして活動する公式YouTubeチャンネルが存在します。ゲーム実況やASMR、オリジナルテーマソングの披露など手広く活動を行っています。



無料で読める公式サイト



最後に

今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。

第17回の「またぞろ。」に続き所謂「社会的弱者」を取り扱う作品の紹介となりました。現在の自身の状況もあり身につまされる想いで記事を執筆していますが、同じ目線だからこそ語れるものもあり執筆中は感情が乗りやすかったと感じます。

反面、自身の経験談の割合が大きくなり肝心の作品紹介が疎かになることもあるので難しい所でもあります。

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました