作品概要
❝生まれて初めて友達ができました‼ 彼女は自称宇宙人ですが私は気にしません‼❞
(引用/榛名まお.『こずみっしょん!』第1巻.芳文社.2012年.15頁)
『こずみっしょん!』は、著者である榛名まお氏による4コマ漫画作品です。(全2巻)
『まんがタイムきららMAX』(芳文社)にて、2011年4月号から2014年4月号にかけて連載されていました。
本作品は、友人がいないことが悩みである主人公、真木鈴子(まき すずこ)が宇宙人を自称する少女、星垣臣美(ほしがき おみみ)と出会うことで穏やかながらも一風変わった日常を送る様子を描いた作品です。
「元中二病患者のぼっち」と「宇宙人」という癖の強い人物たちを主役に据えながらも、それを感じさせない自然な日常の描写が病みつきになる作品です。
ここでは、そんな本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。
あらすじ
人生で初めてできたお友達は、自称宇宙人でした――。真木鈴子、高校1年生。友達居ない歴=年齢の彼女は、ひょんなことから不思議解明部(不解部)に入部することになってしまう。ガチぼっちには初めてだらけのドキドキいっぱい高校生活、開幕です。
引用:http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=700/2023年26日閲覧
主な登場人物
□真木 鈴子(まき すずこ)
❝前も言ったじゃないですか…宇宙人かどうかなんて些細なことだって❞
(引用/榛名まお.『こずみっしょん!』第1巻.芳文社.2012年.56頁)
本作品の主人公。内気な性格で、高校に進学するまで自身の作った設定に入り込む俗にいう「中二病」を患っていたために長らく親しい友人ができずにいた彼女ですが、ひょんなことからクラスメイトであり地球外から派遣された観察員、星垣臣美(ほしがき おみみ)の素性を知ってしまったことで物語は始まります。
自身の過去もあって当初は宇宙人を自称する臣美をただ「電波」なだけだと認識しており、孤独であった自身のこれまでを鑑みれば「些細なこと」であると受け入れ彼女の「正体」を秘密にすることを約束した上で友人になることを提案します。
後に臣美が本物の宇宙人であることを理解しますが、初めてできた友人として以前と変わらず接する友達想いな性格であると同時に、彼女から明かされる経歴や未知の科学技術も即座に受け入れる度量の広さを感じさせる人物でもあり、異星人である自身を快く受け入れるその姿勢から臣美からは深く信頼されています。
内気で友人がいないことを自嘲的に語る彼女ですが、上記のような性格もあって一度知り合った人物とは親しげに会話する様子も見られ、後に紹介する「不思議解明部」の部員とも次第に打ち解け充実した高校生活を送ります。
友人として臣美のことを非常に大切に想う彼女ですが、彼女から渡された指輪型の通信機を手にして左手の薬指にはめることを想像し頬を赤らめるほか、彼女が落雷に怯え自身抱きついてきた際にはまんざらでもない様子を見せるなど、彼女に対して友人以上の好意を持っていることを伺わせます。
□星垣臣美(ほしがき おみみ)
❝……音声レポート1回目 学校潜入初日… 調査活動 問題なく遂行中…❞
(引用/榛名まお.『こずみっしょん!』第1巻.芳文社.2012年.8頁)
頭部に装着した猫耳型の装置が特徴の少女。極秘裏に地球外から派遣された観察員である「宇宙人」ですが、単なる偶然で宇宙人の話題を持ちかけた鈴子を自身の正体を看破した上で鎌をかけてきたと勘違いしてしまい、自ら素性を明かしてしまいます。
当初は所持していた「ハイパー万能銃」で鈴子の記憶を改ざんするつもりも機械の故障により断念せざるを得なくなりますが、秘密を守ることを約束し友人になろうという彼女の提案によって、彼女にとって初の友人となります。
宇宙人である自身を快く受け入れた鈴子を信頼しており、万能銃の修理後も彼女の記憶を操作しようとする素振りは見せません。
宇宙人と言っても外見は一般的な女子高生のそれと大差はありませんが、他惑星に派遣されるだけあって母星では最高学府を出て特殊な訓練を受けているようで学習、運動の両面において優秀な成績を修めており地球人である鈴子に英語を教えることも。
鈴子と共に不思議解明部に入部しますが、部内は彼女を始め個性的な部員が多く、宇宙人という極めて異質な存在でありながら常識人という立ち位置に居ます。
□樺山 奈央(かばやま なお)
❝この世に潜む様々な不思議を見つけ出し その謎を解き明かす不思議解明部… 略して不解部‼❞
(引用/榛名まお.『こずみっしょん!』第1巻.芳文社.2012年.20頁)
鈴子たちが入部した不思議解明部の部長。オカルト好きが高じて世に潜む不思議を解明することを目的とした部活、通称「不解部」を創設するにまで至ります。
容姿端麗で鈴子たちの通う学院の理事長の孫娘でもありますが、能天気な性格でオカルトグッズの収集などの奇行から学院内でも悪評が絶えない所謂「残念美人」です。
創部既定である部員数4名に達するまでに残り2名まで差し掛かったところで「宇宙人はこの学校にいる」という出鱈目を書いた勧誘ポスターによって偶然誘い出された形となった鈴子たちを口車に乗せて入部させます。
また、上記に加えて生粋のオカルト嫌いである理科教諭、並河茜音(なみかわ あかね)を言葉巧みに騙し不解部の顧問になるように仕向けるなど口達者な人物として描かれます。
そんな彼女ですが、オカルトに深い興味を示すにもかかわらず部室内に住み着く霊に部員内でただ一人気が付かないなど霊感が皆無である不憫な一面も。
□黒瀬 ハナ子(くろせ はなこ)
❝強いて言えばこのバカ山が人に迷惑をかけないように監視する係の黒瀬ハナ子よ❞
(引用/榛名まお.『こずみっしょん!』第1巻.芳文社.2012年.21頁)
奈央の幼馴染である少女。落ち着きのある人物ですが破天荒な奈央になにかと付き合わされる苦労人であり、付き合いの長さゆえか彼女に対しては皮肉屋な一面を見せます。
報道部に所属していたものの奈央が無断で不解部への入部届を提出したために強制的に兼部させられて以降、嫌味を垂れつつもどこか危うい彼女の制御役として不解部の活動に参加します。
部内では比較的常識人でツッコミ役に回ることも多い彼女ですが、なぜか除霊の心得があるほか、奈央の過去についての意味深な発現、臣美の正体を看破しているような口ぶりなど謎の多い人物でもあります。
こんな方にオススメ
□作風はきらら作品としては比較的オーソドックスであり、読者を選びません
□「バディもの」が好みの方
【キーワード】「日常」「高校生」「コメディ」「宇宙」「衝撃の展開」「微百合」
著者である榛名まお氏の単行本化作品としては当ブログの第1回で紹介した『のけもの少女同盟』の前作に当たる本作品。
きらら作品としてはオーソドックスな作風でありながら当作品で評価された「コメディ」や「物語終盤の筋運び」はこの時点ですでに確立されており、当作品で得られた感動を同様のレベルで再び味わうことができます。
同じくキーワードに「衝撃の展開」と記載した「のけもの少女同盟」は、きららへの先入観を逆手に取った結末からある程度きらら作品に触れている方向けと紹介しましたが、本作品は結末まで含めて比較的素直なつくりであり全2巻という揃えやすさも加味すると、当作品とは対照的に「まんがタイムきらら」に興味を持ち始めた方に幅広くオススメできる作品だと感じます。
特徴を挙げるとするなら作品概要でも記述した「強烈な個性を持つ者同士が送る平凡な日常」が挙げられ、両者の異質さが偶然噛み合わさることで発生する自然で心地よい掛け合いが魅力でもあるため、所謂「バディ系作品」を好む方も満足できる作品だと思います。
全2巻という揃えやすさも含めて是非読んでいただきたい作品です。
感想(ネタバレ含む)
□元中二病患者のぼっちと宇宙人、癖の強さを感じさせない調和のとれた名コンビ
本作品は「宇宙人でありながら訓練によって地球に溶け込む臣美」と「地球人でありながら周囲に馴染めない鈴子」という地球では異質な存在であるはずの両者を、互いの尖った部分を「観察員としての使命」と「持ち前の度量の広さ」で包み合わせることで平凡な日常に落とし込んでいることが印象的でした。
過去に中二病を患い孤独であったため臣美の特質さが気にならないという無理のない設定によって生まれる自然な会話、鈴子たちの唯一無二の友人感が心地よいです。
また「地球に馴染めない地球人×地球に馴染む宇宙人」というと、近年TVアニメ化された『星屑テレパス』(芳文社/著者:大熊らすこ)が思い浮かびます。
主人公二人の関係性について比較すると当作品では、両者の個性を章ごとに分けてピックアップしながら徐々に重ね合わさる「正数同士の足し算」であるのに対して本作品では、異質な者同士でいることで違和感を感じさせない「負数同士の掛け算」という印象を受けました。
壮大でドラマチックな前者とは対照的に往年の「きらら」らしいゆったりとした安心感が魅力である本作品。同じ題材を取り扱いながらも大きく異なった印象を抱かせる両作品からは、平成から令和にかける「まんがタイムきらら」全体の作風の変遷を感じます。
□薄氷の上に立っていた日常
時として不可思議な事態に見舞われつつも平穏な日常を過ごしてきた鈴子たちですが、友好的と思われた臣美の惑星が地球の資源化を目論む侵略惑星であったことが物語終盤で判明し、彼女たちの友情と平穏な日常が薄氷の上に立っていた事実が唐突に突きつけられます。
共に友情を育んできた鈴子の記憶を自らの手で消去することを迫られた臣美。鈴子と出会った時点で、数あるシナリオの内の一つとしてこのような結末も予測できていたであろうにも関わらず直前まで真実を打ち明けられなかったことに対する後悔や罪悪感、そんな自身を責めなかった彼女への感謝、様々な想いが入り混じる中で最後に涙と笑顔を浮かべる場面。
彼女が真相を打ち明け万能銃のトリガーを引くまでのわずかな時間、直接的な描写はないものの、これまで描かれてきた日常が走馬灯のように駆け巡ることで唐突な展開ながらも最大限に彼女に感情移入することができました。
これまで別個に描かれているように見えた各話の物語が終盤にて一気に収束していく展開は、著者である榛名まお氏の次回作『のけもの少女同盟』(まんがタイムきららMAX)でも見受けられ、当作品で評価された作風の源流を感じ取ることができました。このような手法は氏ならではであり、叶うことなら再び本誌で氏の作品を拝読したいものです。
印象的な場面・台詞
❝架空の友達ノート⁉しかも宇宙人の…⁉ 私この域に達していましたっけ…⁉❞
(引用/榛名まお.『こずみっしょん!』第2巻.芳文社.2014年.114頁)
真相を打ち明けた臣美によって記憶を改ざんされた鈴子が自室で発見した「臣美ちゃんノート」によって記憶を取り戻す場面。
所謂「愛が重い」人物が想い人との思い出を日記にしたためるという描写はキャラ付けとしてインパクトがあり漫画作品ではしばしば見受けられる手法ですが、それ自体が大きな伏線になっていたというケースは珍しかったので印象深いです。
また、臣美と出会った当初は「孤独に比べれば友人が宇宙人であることなど些細なこと」とまで言い切っていた鈴子が、奈央とハナ子の二人の友人がいる状態では日記内の友人が宇宙人であることに酷く動揺していることに彼女の人間臭さが感じられ、シリアスな場面にもかかわらず思わずニヤリとしてしまいました。
小ネタ・余談
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら コミックマーケット82企画本 ランド
本作品は2012年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット82にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット82企画本 ランド」に掲載されました。遊園地がテーマとなっており、内容は遊園地に来た鈴子たちがシューティング系のアトラクションに乗るという内容でした。
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら コミックマーケット84企画本 私の学校へようこそ!
本作品は2013年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット84にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット84企画本 私の学校へようこそ!」に掲載されました。
きらら作品の登場人物が一堂に会するきらら学園が舞台となっており、鈴子たち不思議解明部の一行は「宇宙人」つながりで、『はるみねーしょん』(芳文社/著者:大沖)の細野はるみ(ほその はるみ)、『コドクの中のワタシ』(芳文社/著者:華々つぼみ)のぐれ子、『うにうにうにうに』(芳文社/著者:青田めい)のうにたちと交流しました。
□『ぐーぱん!』からのゲスト
単行本第2巻30ページにて文化祭の出し物である射的を楽しむ鈴子と臣美。
景品棚に陳列された特徴的な外見のぬいぐるみは、著者である榛名まお氏の作品である『ぐーぱん!』(まんがタイムきららMAX)に登場する「ミリィ・ザ・キャット」です。当作中では主人公である鷲頭未里(わしず みり)の母がデザインしたものという設定でした。
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最後に
今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。
第18回にて「年内に20タイトル」と宣言したもののギリギリ間に合わせることができませんでした…申し訳ないです(泣)夏休みの宿題は最終日に片付けるタイプの人間なので「期限付き」はどうも苦手です…
今年もこれまで通り不定期で投稿していくことになりますが、お付き合いいただけたら幸いです。
長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。今年もよろしくお願いします。
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