作品概要
❝沖縄のとある島「宇御島」 今日からこの島での生活が始まります❞
(引用/ミナミト.『海色マーチ』第1巻.芳文社.2019年.7頁)
『海色マーチ』は、著者であるミナミト氏による4コマ漫画作品です。(全2巻)
『まんがタイムきらら』(芳文社)にて、2018年7月号・8月号でのゲスト掲載の後、2020年7月号まで連載されていました。
本作品は、「海なし県」である埼玉から沖縄に引っ越してきた主人公、小波周(さざなみ あまね)と生粋の沖縄県民である比屋定珊瑚(ひやじょう さんご)が送る沖縄の海を舞台にした穏やかな日常を描いた作品です。
沖縄出身である著者によって繊細に描かれた海の透明感、小波の音を聞くような登場人物たちの自然で小気味よい会話など、まるで旅行に来たかのような開放感が特徴の作品です。
ここでは、そんな本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。
あらすじ
埼玉から沖縄へ引っ越した小波周が出会ったのは生粋の沖縄っ子・比屋定珊瑚。 海を知らない周に優しく教える珊瑚…とはならず!? 煽る周と殴る珊瑚。今日も海では二人のバトルが勃発中です。 仲良くないけど悪くもない(?)凸凹コンビが送るマリンコメディ開幕!
引用:http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=1542/2024年3月9日閲覧
主な登場人物
□小波 周(さざなみ あまね)
❝これが海の匂いなんだ❞
(引用/ミナミト.『海色マーチ』第1巻.芳文社.2019年.7頁)
埼玉から沖縄に沖縄に引っ越してきた少女で本作品の主人公。沖縄に着いたその日、海岸で日光浴をしていた珊瑚の口に出来心からヒトデを突っ込んでしまったことで物語が始まります。
上記のエピソードの通り好奇心旺盛な性格で、沖縄にやって来たのも「海なし県」である埼玉出身故に知ることのなかった海を満喫するため。
経験の浅さから当初は海の危険性を軽視しており、準備もなしに整備のされていない海に入ろうとするなど危うい一面が目立ちます。
しかし、珊瑚から譲り受けたシュノーケル越しに見た海の美しさに魅了されたことで、後日、彼女とその友人を巻き込みシュノーケリング部を設立するに至ります。以降は、現地人であり海での心得がある彼女にレクチャーしてもらいながら海水浴を楽しみます。
明快で能天気な彼女ですが、現地で初めてできた友人である珊瑚に気を許しているからなのか、癪に障る言動や悪ノリが多く、その都度彼女から制裁を受けるものの懲りていない様子。
また、初めて海に入った日にナマコを素足で踏んでしまったことがトラウマとなって以降、ナマコに苦手意識を持つようになりますが、その他の魚類は平気な模様。
□比屋定 珊瑚(ひやじょう さんご)
❝恐怖の無いヤツが一番厄介なの 海を舐めないで!❞
(引用/ミナミト.『海色マーチ』第1巻.芳文社.2019年.11頁)
周が沖縄に来た初日に砂浜で出会った少女。ボーイッシュな容姿で、生まれも育ちも沖縄である生粋の沖縄県民。砂浜で日光浴をしていたところ、偶然通りかかった周に口にヒトデを突っ込まれたことをきっかけに学生生活を共にすることになります。
なにかと付き纏ってくる周に苦手意識を持つものの、危なっかしい彼女を放ってはおけず何かと世話を焼きます。
海への造詣が深く、海水浴の楽しみだけではなく、毒を持つ海生生物への対処も心得ており、経験の浅い周のコーチを務めます。当初は安全面から活動を認められなかったシュノーケリング部が正式に部として認められたのも彼女の存在あってこそ。
気持ちが表情や言動に現れる正直な性格であり、何かとからかってくる周には制裁を加える暴力的な人物でもあります。
ナマコが苦手な周とは違い、海生生物には慣れていますが、幼少期に噛まれた経験から猫が苦手な意外な一面も。
こんな方にオススメ
□室内に居ながら手軽にアウトドア感覚を味わいたい方
□凹凸コンビが好きな方
【キーワード】「日常」「中学生」「コメディ」「動物」「沖縄」「シュノーケリング」
本作品の魅力は何といっても、ミナミト氏によって繊細に描かれた自然の描写だと感じます。圧倒的な海の透明感と潮風の様に吹き抜ける主人公たちの小気味よいテンポの会話からは、室内に居ながら実際に沖縄に訪れたような爽やかな解放感を感じさせます。
近年、増加傾向にある「アウトドア系漫画」ですが、他と比較すると作中での専門用語などの登場頻度が少なく、上記のような描写を始めとした「雰囲気」で魅せる作品という印象を受けます。
専門用語の少なさ故の圧倒的な低カロリー感、さながら手ぶらでの日帰り旅行気分です。
また、周と珊瑚の少々バイオレンスな凹凸コンビも印象的で、何かにつけて珊瑚を煽っては彼女に制裁を受ける周のどこか憎めないキャラクター性も本作品の魅力に一役買っています。
全2巻という揃えやすさも含めて是非読んでいただきたい作品です。
周と珊瑚の関係性に『キルミーベイベー』(芳文社/著者:カヅホ)の二人の姿を重ねた方も多いようです。
感想(ネタバレ含む)
□感じる開放感、聞こえる海の小波、肌に伝わる陽の光
本作品では、表紙の海と登場人物以外のものを極力排した構図を始め、作中でも海を大きく見せる構図が多く、4コマ漫画という限られたスペースの中で海の広大さを最大限に表現しています。
氏の温かみのある画風によって描かれたそれらは圧倒的な透明感を放ち、モノクロであっても透き通る鮮やかな「青」を感じます。
登場人物たちのために舞台として用意されたのではない、「海があってこそ」という確かな存在感と必要性を感じます。
また、本作品は「部活動要素」と「ご当地要素」という作品の主題ともなり得る大きな要素を二つも兼ね備えながらもそれら一辺倒になることなく、あくまで沖縄の海を舞台にした少女たちの日常を中心に据えており、設定に振り回されない登場人物たちの自然な会話と関係性が非常に心地よいです。
海を背景に交わされる少女たちの流れるような会話からは、心なしか海の小波の音が聞こえ、太陽の暖かい光を肌で感じさせます。
物語や世界観、台詞を「噛み砕き」「味わい」「飲み込む」までもなく、心の奥に静かに溶けていくような本作品、読む際の消費カロリーがとにかく少ないように感じられ、漫画の感想として適切かどうかわかりませんが、良い意味で漫画を読んだ気になりませんでした。
自然の雄大さと島民の温かみを全身で感じる本作品は、「日常系」というより近年使われなくなった「空気系」という言葉がよく似合う作品だと思います。
カラーページの海は、防水ケースに入れた携帯電話で撮影した写真を参考に色を塗っているそうで、沖縄県民である著者の拘りを感じます。
印象的な場面・台詞
❝風が冷たい… 夏ももう終わりか❞
(引用/ミナミト.『海色マーチ』第2巻.芳文社.2019年.111頁)
最終話にて珊瑚が海に浸かりながらふと漏らした台詞。どこか名残惜しそうな背中からは、彼女たちのひと夏の思い出と共に物語の終わりを告げるかの様な晩夏の風を感じます。
お気に入り…というか純粋に驚いた場面なのですが、2巻52頁も印象深いです。
ハリセンボンって素手で触れるんですね…てっきり怪我をするほど鋭利なものだと思っていました。
小ネタ・余談
□宇尾島のモデル
1巻のあとがきでも記載されていますが、宇尾島は沖縄県南部の南城市にある「奥武島」がモデルになっています。もずくやアーサーが名産品であり、作中で周が食べた天ぷらも名物として有名です。
□メディア出演
2巻のあとがきにもあるように本作品は、2020年1月に沖縄のテレビ局に取材を受けたそうです。こちらは現在視聴は困難ですが、沖縄県の地方紙である「沖縄タイムス」にて取り上げられた記事はインターネットで閲覧することができます。
記事内では貴重な著者の経歴などが紹介されておりファン必見の内容となっております。会員登録が必要なものの、無料プランもあるのでこの機会に登録されてみてはいかがでしょうか。
無料で読める公式サイト
※2024年3月10日現在試し読みのみ
最後に
今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。
「沖縄の風が」「海の透明感が」なんて知った風に書きましたが、私は一度も沖縄には行ったことがありません…沖縄を舞台にしたきらら作品というと『はるかなレシーブ』(芳文社/著者:如意自在)も有名であり、聖地巡礼も兼ねて一度は旅行に行ってみたいものです。
長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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