作品概要
❝今の一年生が来年さびしくてしょうがなくなるくらい―共に楽しい時を過ごせるようにしたいな❞
(引用/榊󠄀.『CIRCLEさーくる』第2巻.芳文社.2009年.74頁)
『CIRCLEさーくる』は、著者である榊󠄀氏による4コマ漫画作品です。(全5巻)
「まんがタイムきららキャラット」(芳文社)にて、2007年2月号から2012年3月号にかけて連載されていました。
本作品は、大学の漫画研究会に所属する男女の日常を描いた作品です。きらら作品としては珍しく大学が舞台ということもあり登場人物の性別や年齢層は幅広く、また、作中で時間の移り変わりが明確に描写されていることが特徴です。
本作品は漫画研究会を舞台としていますが、「漫画を描くこと」や「作品の発布」といった方面での「漫画研究」が主題ではなく、主に親友生歓迎会やスキー合宿を始めとしたサークル活動中での部員同士の交流を作品の主軸としています。
朝から部室に入り浸る部員の姿や講義の対策ノートを先輩部員から借り受ける様子など「大学生」らしい描写の数々に思わずノスタルジックな気持ちにさせられます。
ここでは、本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。
あらすじ
冬だけどナマ足出してます☆ キラリ輝くかなたの太ももに釘付けになってくれ!! あとがきマンガでは「さーくる」の面々がコーヒー飲みつつパラレルワールドなかんじでコミックス1巻について語っちゃう♪ 描いて笑って恋をして。小金井かなた、元気です!
引用:http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=177/2023年7月26日閲覧
主な登場人物
□小金井 かなた(こがねい かなた)
❝自分ですら面白いと思わない作品を描いたら誰も面白がってくれないじゃない❞
(引用/榊󠄀.『CIRCLEさーくる』第4巻.芳文社.2011年.22頁)
本作品の主人公。真冬にもかかわらずハーフパンツを着用する活発でざっくばらんな性格の女性。
漫画研究会に所属しているだけあってか、成人男性向けの美少女PCゲームに理解があるなど性別間の隔たりを感じさせない乗りの良い印象を受けます。しかし、その性格ゆえか積雪によって電車が停止した際には躊躇なく男性陣の家に泊まろうとするなど危うい一面もあります。
本作品は、かなたが1回生の冬の時期からスタートしているため物語の序盤で後輩部員が出来ることになりますが、彼等にも気さくに話しかけるほか漫画の描き方を指導するなど、単なるムードメーカーだけではなく頼れる先輩部員としての姿も見られます。
そんな快活な性格とは裏腹に後に紹介する境栄(さかい さかえ)に淡い恋心を抱いていますが、「同じサークルの仲間」という意識の強さゆえに中々男女の関係になれないという大学のサークル特有の悩みを抱えています。
本作品は、サークル活動だけではなく彼女の恋愛事情も大きな見どころの一つです。
□境 栄(さかい さかえ)
❝なーんか今は家帰ってからは飯風呂トイレ寝る以外はずっとCG描いてる様なきがするわ❞
(引用/榊󠄀.『CIRCLEさーくる』第1巻.芳文社.2008年.36頁)
高い背丈と糸目が特徴的な男性。かなたと同じく漫画研究会に所属しており、彼女の同期に当たる人物。
顔が少々厳つく大柄な体格と相まって威圧的な印象を受けますが、物腰は柔らかく気さくな人柄です。また、商業用のゲーム紹介雑誌に自身のイラストの投稿や持ち込みを行うなど努力家な一面もありそのイラストの出来栄えは、ほかの部員からも一目置かれるほど。
実は前述したかなたに好意を抱いているのですが、彼もまた彼女と同様「気の合うサークルの同期」という関係性から一歩踏み出せないでいるため、互いに相思相愛であることには気が付いていない模様。
また、サークルの部員をSDイラスト化する特技があり前述した彼女への好意もあってか特にかなたをモデルにすることが多いですが、その意図は当の本人には微妙に伝わっていない様子。
人当たりの良さと努力家な一面から後に漫画研究会の会長に就任しますが、就任後は合宿の下見を行うほか後輩部員を気に掛ける様子も見られるなど、サークル内の頼れる会長としての側面も描かれます。
□藤野 綾(ふじの あや)
❝はいはい気にしなくて大丈夫よー❞
(引用/榊󠄀.『CIRCLEさーくる』第1巻.芳文社.2008年.11頁)
ストレートのロングヘア―とスタイルの良さが目を引く女性。彼女もまた漫画研究会に所属しておりかなたと境の同期です。
お淑やかな性格で後輩や先輩にも気が利くほかサークル内の女性同士の喧嘩を仲裁するなど、包容力もありサークル内の男性陣からの人気が高いです。
反面、サークル内で高校生時代の制服を持ち寄った際には男性用の制服を着用して見せるなど、かなた同様に漫画研究会らしい乗りの良さも見られます。
かなたや境とは違い高校時代も漫画研究会に所属しており、そこでは副部長を務めていたほか生徒会の副会長も兼任しており、人望の高さは高校生時代からのようで大学でも進級後は副会長及び総務財務局長に就任するなど、他の部員からは影の支配者とも称され信頼されています。
かなたとのスキンシップが目立つ彼女ですが、意外にも彼女と知り合ったのは漫画研究会に入部後です。また、かなたの境への恋心を理解しており彼女と境のツーショット写真を撮るように仕向けるなど気の利いた行動を見せることもあります。
こんな方にオススメ
□「大学生」が主役のきらら作品を読みたい方
□仲の良さゆえに中々踏み込んだ関係になれない、もどかしい恋愛描写を好む方
【キーワード】「日常」「大学生」「漫画研究会」「男女の恋」「ノスタルジック」
本作品は、作品概要でも触れたようにきらら作品としては珍しく「大学生」を主役にした物語となっております。また、「漫画研究会」といっても専ら漫画の研究に明け暮れている訳ではなく、作中には漫画や絵を描けない部員も多数存在しておりどちらかというと漫画やゲームを中心としたサブカルチャーを趣味とする者たちの集いといった趣です。
現実世界でもこういった形態の漫画研究会は多くの大学で存在しているようで、読者の中には実際にこういったサークルに所属しており、作中の描写に「懐かしさ」を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
大学生が主役ということもあって「学生だけでの合宿」「朝までカラオケ」「飲酒」など、「高校生」が主役であることの多い他のきらら作品と比較すると登場人物の行動の自由度が高いことも本作品の魅力だと感じます。
また、本作品には男性も多く登場しておりサークル内での男女間の恋愛事情も見どころです。漫画研究会という文化系特有の雰囲気や、サークル内の仲間という「身内感」ゆえに中々進展しない恋愛描写には思わず作中の人物同様に焦れったさを感じることでしょう。
作中ではこれらの要素が上手く溶け合っており、全5巻という揃えやすさも含めて是非読んでいただきたい作品です。
未成年飲酒を仄めかす台詞など「時代」を感じさせます。こういった描写は最近めっきり見かけなくなりましたね。
感想(ネタバレ含む)
□どこか「懐かしさ」を感じるリアルなサークル描写
私事ですが、本ブログの筆者も大学生時代は漫画研究会に所属していたため、本作品の「部室に入り浸る部員」「朝までカラオケ」といった大学サークル特有の描写に非常に懐かしさを感じました。また、学生時代に漫画研究会に所属していなかったという読者も、講義の対策ノートを先輩部員から借り受けるような所謂「大学生あるある」に共感できる場面もあったのではないでしょうか。
また、そのサークル描写も、作中の新入生歓迎会の期間中の禁止事項に「部室内での合唱」「エロゲー等下ネタの禁止」の記載がされているなど、一貫して非常に良識のあるサークルとして描かれているのが好印象でした。
私の所属していた漫画研究会では、正に上記の件で騒動になったことがあるので、既に引退している身ではありますが自分事の様に感じられ、拝読していて気不味くなることもありました。それほどまでに本作品のサークル描写には非常にリアリティを感じます。
本作品は登場人物が多く、作品の視点も常に主人公に固定されているわけではないため、第3者的な視点でも読むことができます。本作品を読んでいる間はさながら本作品の漫画研究会の一員になった気分になれる心地よい没入感も本作の魅力だと感じます。
□永遠ではないキャンパスライフ…しかし、希望を感じさせる作中の時間経過
本作品は他のきらら作品と比較して作中の時間経過が早いことも大きな特徴の一つです。
作中の❝さっきからさびしさを感じてたのは 先輩達が共に楽しい時を過ごさせてくれたからなんですよね…❞(引用/榊󠄀.『CIRCLEさーくる』第2巻.芳文社.2009年.74頁)という台詞があるように、第3巻での役員交代以降、かなた達の一つ上の代に当たる先輩部員達の登場頻度が減少するなど、時間経過による寂寥感も本作の魅力です。
「子供以上、大人未満」な彼女達が就職活動や役員就任によりのしかかる責任などと向き合いながら正真正銘の「大人」へと成長していく姿には成人読者なら胸打つものがあるのではないのでしょうか。
しかし、上記の台詞と同ページで語られる❝あたし達も負けないよう今の一年生が来年さびしくてしょうがなくなるくらい―共に楽しい時を過ごせるようにしたいな❞(引用/榊󠄀.『CIRCLEさーくる』第2巻.芳文社.2009年.74頁)という台詞にも表れているようにかなた達は時間経過による環境や立場の変化を前向きに捉えており、本作品の温かな作風と相まって必要以上に重苦しい雰囲気にはならず、前に進むことに希望が持てる展開になっています。
限りある大学生活をひた向きに駆け抜ける彼女たちの姿には時間の貴重さを再確認させられます。
印象的な場面・台詞
□1巻29頁
新入生歓迎会にて、敢えて自然体の「ダメオタク」として勧誘しようとする男性部員達。
当時の先輩方には大変失礼な話ですが、私も大学の漫画研究会の入会と決め手となったのは、ブースにいた先輩方の気の抜けたいい加減な勧誘から一変、アニメ・漫画の話題と見るや急に饒舌になるその姿から自身と同じ「ダメオタク」な印象を受け、安心感を持ったためであり非常に共感できる場面でした。
❝純粋な漫画アニメ・ゲームオタクとして―生涯一消費者を―貫く!!❞
(引用/榊󠄀.『CIRCLEさーくる』第1巻.芳文社.2008年.65頁)
かなた達の一つ上の代に当たり会長に就任した境の前任である高円寺の台詞。ある意味ではオタクの鑑ともとれるセリフですが、どこか情けなさを感じるのが個人的に好きな台詞であります。
ここでは紹介できませんでしたが、『まんがタイムきらら』の読者層的に模範的なオタクとして描写される彼の行動の数々に親近感を覚える読者は多かったのではないでしょうか。
小ネタ・余談
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら コミックマーケット74企画本(イラスト集)
本作品は2007年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット74にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット74企画本(イラスト集)」に収録されています。水着姿のかなた、綾、神田、上野原泉が描かれた夏らしいイラストになっています。
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら コミックマーケット76企画本 CROSS×OVER
本作品は2009年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット76にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット76企画本 CROSS×OVER」に『ラジオでGO!』(芳文社/著者:なぐも。)とのコラボ漫画が掲載されています。物語は沢渡ちとせが自身のラジオ番組でかなたたちを取材するという内容でした。
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら コミックマーケット76企画本 OVER×CROSS
本作品は2009年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット76にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット76企画本 OVER×CROSS」に『ラジオでGO!』(芳文社/著者:なぐも。)とのコラボ漫画が掲載されています。物語は沢渡ちとせが取材に訪れた街で偶然出会ったかなたたちと早口言葉対決をするという内容でした。
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら コミックマーケット78企画本 I
本作品は2010年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット78にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット78企画本 I」に掲載されました。IFストーリーがテーマとなっており、物語は日本に襲来した太古の怪獣小金井に対小金井地球防衛会(C・I・R・C・L・E)が対抗するというものでした。
※2024年5月3日追記
□まんがタイムきららキャラット独立創刊5周年記念小冊子
2010年11月号にて独立創刊5周年を迎えたまんがタイムきららキャラット、当誌に付属した特別記念冊子に本作品も掲載されました。
SD絵を得意とする栄がキャラットちゃんのデザインを披露してくれました。
□登場人物の名前の由来
単行本第5巻の著者コメントでも語られていますが、作中の登場人物の苗字の由来は東京の中央線の駅名になっています。登場人物の名前の由来を駅名や地名にするのはきらら作品に限らず多くの漫画作品で見られます。
私も漫画研究会の端くれとして1次創作に挑戦したことがありますが、やはり最初に躓くのは登場人物の名前…悩んだ末に自身が住まう地域由来の名前にするのは漫画家あるあるなのでしょうかね。
また、名前の由来繋がりで作中ではひらがなで表記されるかなたの名前ですが、単行本第1巻のカバー裏にて本名は「叶多」であることが判明しました。
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最後に
今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。
私が漫画研究会出身ということもあり所々に私個人の経験談が混ざってしまいましたが、それほど本作品は漫画研究会に所属している方、或いは過去に所属していた方から高い共感性を得られる作品だとも言えます。
もちろん、漫画研究会に所属したことがない方でも十分に楽しめる作品ですので是非読んでいただきたいと思っております。
長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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