作品紹介(きらら)

【作品紹介】第1回「のけもの少女同盟」(著者:榛名まお)

作品概要

❝「普通」に憧れていた私のわがままです
(引用/榛名まお.『のけもの少女同盟』第2巻.芳文社.2019年.113頁)

『のけもの少女同盟』は、著者である榛名まお氏による4コマ漫画作品です。(全2巻)

『まんがタイムきららMAX』(芳文社)にて、2016年5月号・6月号でのゲスト掲載の後、2019年3月号まで連載されていました。

本作品は、「様々な理由からクラスに馴染めない女子高生4人が保健室を拠点に、養護教諭と協力し合いながら社会(クラス)への復帰を目指す」という重いテーマでありながらも、それを感じさせないキレがありテンポの良いコメディと「きらら」らしいあたたかな日常を描いた作品です。

ここでは、本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。



あらすじ

超軟弱、ツンギレ、厨二病…… 色々な理由で人付き合いが苦手な女の子たちが出会い、 ひょんなことから部活を結成! 活動内容は、「友達付き合いを実践してクラスに溶け込む術を身に付ける」こと―― 友達何人できるかな? 奇想天外なクラス復帰コメディ4コマ、第1巻!

引用:http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=1360/2023年7月15日閲覧



主な登場人物

桐原 霞(きりはら かすみ)
❝普通に友達を作って…普通の学園生活を送りたいです…
(引用/榛名まお.『のけもの少女同盟』第1巻.芳文社.2017年.11頁)

本作品の主人公。病気のため入院生活が続きこれまで学校に通うことは難しかったため交友関係にも乏しく世情にも疎いようですが、主治医の許可が下りたため上記の台詞にもある幼少期からの夢を叶えるために方波見高校に入学しました。

しかし、体調は万全とは言えず1ヶ月遅れの高校デビューとなってしまいます。そんな重い境遇を感じさせないほどに本人は笑顔を絶やさず礼儀正しい性格。許可が下りたというものの依然として虚弱体質であることには変わらず、ことあるごとに倒れては保健室に運び込まれては話の導入かオチになることもしばしば。

そんな彼女ですが、持ち前の明るい性格と世情に疎いこともあって他者に対して悪意や偏見を向けることが少ないため、後述する様々な問題を抱えた人物たちとも分け隔てなく接することができ、あらすじにもある「放課後文化研究会」の部長になるなど器量の大きさを感じさせます。

重い境遇を背負いながらもそれを周囲に感じさせることなく明るく前向きに夢に向かって進む姿、そんな強さと優しさが彼女の魅力だと思います。

熊代 ニカ(くましろ にか)
❝好きなものバカにする人たちと話す気がなくなっただけ
(引用/榛名まお.『のけもの少女同盟』第1巻.芳文社.2017年.19頁)

高校進学を機にロシアから日本に移住してきたハーフで小柄な少女。

移住前から日本のアニメや漫画が大好きだったようでオタクな友達ができることを期待していましたが、学校初日にクラスメイトがアニメ作品をバカにする様子を目の当たりにして以来、教室から距離を置くようになってしまいました。

ハーフということもあり日本語は流暢ですが、前述の件でクラスメイトをロシア語で罵倒して以来日本語を話せることを隠しています。

そんな彼女ですが、ひょんなことから主人公に日本語を話せることがバレてしまったことをきっかけに後に紹介する養護教諭である千間院もも(せんげんいん もも)の進言から霞と共に放課後文化研究会の一員になります。

時折、オタク特有の早口な推し語りなども出てしまいますが部員内では常識人で何かと振り回されがちな役回り。年相応に自身の幼っぽさを気にする一面もあるなど等身大の高校生であり、読者として共感しやすいです。

川居 すずめ(かわい すずめ)
❝わっ私はいないんじゃなくて必要ないから作らないだけだし!!
(引用/榛名まお.『のけもの少女同盟』第1巻.芳文社.2017年.13頁)

ヘッドホンとスズメのヘアピンがトレードマークの少女。公式サイトのあらすじにも書かれているとおりツンギレな気質。幼くして母親を亡くしたことから自立心が強く、父親の再婚相手である義母とも折り合いが悪いため父親が倉庫代わりにしていたマンションで一人暮らしをしています。

この自立心の強さから友達作りにも消極的でクラスで孤立していましたが、根はやさしく困っている人を看過できない性格の持ち主。加えて作中で「チョロい」と評されるほど他者からの素直な賞賛や頼みには乗ってしまいがちで、放課後文化研究会にもその性格がきっかけでなし崩しに入部することになってしまいます。

最初は”ツン”の部分が目立った彼女も入部後は徐々に丸くなり、文武両道の頼れるリーダーへとなっていく姿は見どころです。反面、ホラーが苦手な可愛らしい一面もあり人間味のあるキャラクターです。

MacKey
MacKey

個人的に本誌での「プライドは高いけど協調能力は低い。」という紹介文がツボです。

倉持 詠子(くらもち よみこ)
❝世間からのけものにされた少女達が身を寄せ合う同盟…って感じ嫌いじゃないぜ
(引用/榛名まお.『のけもの少女同盟』第1巻.芳文社.2017年.26頁)

引っ込み思案でホラーとスプラッターが趣味の少女。ももの姪であり、家庭の事情からももと2人で暮らしています。

幼少期は天真爛漫な少女でしたが、ももに無理やり連れてこられたお化け屋敷がきっかけで前述の趣味に目覚め、徐々に周囲と合わなくなり孤立してしまい高校生になる頃には保健室登校を繰り返すようになってしまいました。

人前に出ると上手く話せないため会話は普段から持ち歩いているぬいぐるみ「ぜぶぶくん」を使った腹話術で行うなど漫画らしい個性もあります。俗っぽい言い方をすると「萌え度」は作中でも高く、本作品のマスコット的なキャラクターです。

余談ですが、彼女の持つある才能が伏線になっている箇所がいくつかあるため是非探してみてください。

千間院 もも(せんげんいん もも)
保健室の妖精…ももちゃんですっ!!
(引用/榛名まお.『のけもの少女同盟』第1巻.芳文社.2017年.65頁)

霞たちの通う方波見高校の養護教諭。普段から生徒と同じ制服を着用しており童顔と相まって本人が素性を明かすまで霞たちは一般生徒だと勘違していました。

生徒への振る舞いはフランクで教職員として問題行動が目立ちますが、クラスから孤立していた主人公たちの居場所を作るなど生徒への向き合い方は誠実です。

霞たちが所属する部活「放課後文化研究会」の立案者であるなど、クラスに居場所がなく行動に制限のある少女たちが主役である本作品において様々なイベントを企画する舞台装置的なポジションであるといえます。

登場頻度の高さやその振る舞いからただの顧問キャラではとどまらず本作の5人目のメインキャラクターとしてその存在感を発揮しています。



こんな方にオススメ

有名なきらら作品は一通り触れており、一味違った展開を求める方
読了後の心地よい余韻を求めている方

【キーワード】「日常」「高校生」「コメディ」「衝撃の展開」「感動」

後に紹介する衝撃の結末から、きらら作品としては少々異色という評価を受けることもある本作品ですが、終盤の展開を除けば寧ろきらら作品としては正統派なつくりだと思います。明快な登場人物、質の高いコメディと合わせて全体としてバランスが良く、前評判とは裏腹に非常に読みやすいと感じる作品です。

ですが、そのバランスの良さは強烈なキャラ付けや明確な目的のあるストーリー構成がなされることの多い近年のきらら作品と比べると、序盤に読者を惹きつける強さという点においては少々物足りなさを感じさせるかもしれません。

しかし、後述する理由からそういった終盤までの所謂「平凡さ」は結末の説得力を高めるエッセンスであり、決して作品の評価を下げるものではないと思います。全2巻という揃えやすさも含めて是非読んでいただきたい作品です。



感想(ネタバレ含む)

往年の「きららの友情観」に一石を投じるような結末

本作品は、不仲とまではいかないものの、どこかぎこちなさを感じる彼女たちが数々のイベントを経て、ようやく互いを友人と認め合えるようになったタイミングで霞が病死するという衝撃の結末を迎えます。

「これから」のことに思いを馳せていたニカたちと、「これが最後」であると理解していたとの「友情」や「日常生活」への認識の違いが唐突に突きつけられる展開。そして、5月15日から11月17日のわずか6か月間での関わりであったにもかかわらず、手紙の中でみんなに会えたことを本当に幸せだとまで言い切るに至った霞の心情を思うと胸が締め付けられました。

結末については当時、賛否両論であったそうですが「きらら」らしく霞の死後の展開は物悲しさを感じさせない爽やかな展開で、❝霞はちっとも可哀想なんかじゃない❞(引用/榛名まお.『のけもの少女同盟』第2巻.芳文社.2019年.113頁)という台詞にも表れていると思います。この結末は、「ずっと仲良し、ずっと一緒」「この日常はこれからも」といった「きららの友情観」へのアンチテーゼであるとも感じられ当時大きな衝撃を受けました。

「きらら作品」という一種の色眼鏡を外して本作を読むと最後は、所謂「それから数年後…エンド」と、主人公の死を含め物語としての展開はありきたりであると感じられます。しかし、先程述べたアンチテーゼも含め、このストーリーを当時のまんがタイムきららで描き切ったということに大きな意義があったのではないかと思います。

本作品が描いた友情観など、読了後の余韻は漫画の中だけでとどまらず、自身のこれまでを振り返り今後の生き方を少し見直したくなるというと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、人の価値観に影響を与えるだけのカタルシスが本作にはあると思います。

結末を知っていると大きく見え方の変わる物語

霞が初めから自分の死を覚悟していたことを知っていれば、見方が180度変わる物語も本作の魅力を語る上で欠かせないものであります。

本作品は残念ながらアニメ化までとはいかず、全2巻という短さで完結してしまいました。しかし、皮肉にもこの短さが下記のような場面を探すために物語を読み返すのに丁度よい長さでもあり、また、作中で物語開始から半年という短さでこの世を去った霞の体験ともリンクしているとも感じられます。

・主人公宅へ風邪のお見舞いへ行った際の母親の反応
きらら作品の母親キャラは、どこか「能天気で感情豊か」ということが多く、初見では霞に友達が出来たことを過剰なほどに喜ぶ母親の姿に違和感を覚えませんでした。しかし、結末を知っていると涙する母親の姿も違った印象に映ります。

単行本では巻頭の書下ろしページにて物語の結末を示唆するような描写がありますが、連載当時は上記の母親の反応やただの風邪にしては多すぎる薬の量など、ここで「おや?」と違和感を覚えた読者もいたのではないでしょうか。「唇を噛んだ」「唇が乾燥していて…」などのセリフも吐血を隠すための嘘だったのでしょうね。

・主人公のなんにでも憧れる性質
これまで「普通の女子高生」なら気にも留めないであろうイベントなどでも憧れを示していた霞の性質をすずめが皮肉交じりに指摘する場面。霞の余命が残りわずかであることを踏まえると珍しく霞が不機嫌になるのにも納得がいきます。

MacKey
MacKey

話数的に丁度一本の良質な映画を見たような満足感がとても心地良いです。

もっと続きが見たかったと思う反面、終盤の説得力や読了後のカタルシスは2巻という短さ故であるとも感じられるためファン心理としては非常に複雑です。

当時、榛名まお氏がどれほどの連載期間を想定していたかは定かではありませんが、打ち切られたことで作品の完成度が高まったとも見れるこの結末は少々皮肉なようにも感じます。



お気に入りの場面・台詞

2巻109頁、114頁

霞が息を引き取る間際に友達のことを想起するシーンで、今まで何度も呼び間違えそうになりながらも一貫して「先生」と呼んでいたもものことを最後にはっきりと「ももちゃん」と呼んだこと。

また、自称霊感体質の詠子が最後に旅立つ霞の笑顔に気が付いた場面。両者とも、最終話までに伏線がしっかりと張られており、特に「ももちゃん」に関してはそれまでお約束的要素が強かっただけに涙を誘う名場面です。

単行本のカバー裏

2巻のカバー裏には作中で霞が執筆した児童文学が載せられているのですが、そこには「YOMIKO 絵」の文字が記されています。作中でほとんど触れられなかった、詠子の意外な絵画スキルの高さが活かされていることに気が付いた時には思わず笑みがこぼれました。

MacKey
MacKey

こういった細かい部分でキャラクターの設定を活かしきる手腕は非常に見事だと思います。

著者のX(旧Twitter)のプロフィール画像も詠子であるため、榛名先生のお気に入りのキャラクターだったのかもしれませんね。



小ネタ・余談

2巻72頁

ニカが日本の学園祭を思い浮かべる場面では、明らかに『け〇おん!』だとわかるコマがあります。きららのあるあるネタなのか本作品以外にも学園祭=バンド演奏=『け〇おん!』ネタのある作品はいくつかありますね。今後こういったお約束場面は、2022年に大ヒットした某陰キャロック漫画に置き換わっていったりするのでしょうか。

『こみっくがーるず』とのコラボ

本作品は、2018年に放送されたTVアニメ『こみっくがーるず』(芳文社/著者:はんざわかおり)での放送時の企画である「日刊こみっくがーるず」とコラボした経歴があり、榛名まお氏によって描かれた『こみっくがーるず』も掲載されました。当時のCMでも紹介されており、この機会に本作品を知ったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。



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最後に

今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。

きららファンからも隠れた名作として評価されている『のけもの少女同盟』ですが、本ブログを立ち上げた経緯からその記念すべき1作品目として相応しい作品だったと思います。

今後も本作品のような映像化の機会に恵まれなかった作品を中心に紹介していく予定ですが、機会があれば映像化された人気作品なども紹介したいと思います。

当然、そういった作品は巻数やファンも多いためここで魅力を伝えきれるか不安ではありますが、いつの日か必ず挑戦したいと思います!

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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