本編
※pixivでも同様のものを掲載しています。
#ブルーアーカイブ #連河チェリノ 動乱の創設記念日~雪原に君臨せし暴軍~ – MacKeyの小説 – pixiv
プロローグ
~サヤの研究室~

う~ん……おかしい、カイ先輩たちから押収した分も含めて「若返りの秘薬」の数が管理表と一致しないのだ。

はぁ……この薬のせいでいろんな騒ぎを起こしちゃったし、こんなことならもっと早くに処分するべきだったのだ……。

何かの間違いで外に持ち出されていたり……なんて、ぼく様の考えすぎか、もう一度数え直すのだ‼
~レッドウィンター連邦学園・会長執務室~

はぁ……まったく、アイツらまたおいらのことを“チビ”呼ばわりして……。

おいらは、このレッドウィンター連邦学園の偉大なる生徒会長なんだぞ‼粛清してやったとはいえ気が収まらん‼

なんて不愉快なんだ……もういい‼仕事はやめにして気晴らしにテレビでも見るか。

(放送)今回、我々疑似科学部が自信をもってお勧めするのはこちらの商品―

なんて下らない“ジョークグッズ”なんだ……さすがのおいらでも騙されんぞ……そろそろ別の番組に……。

(放送)そして今回、新たに紹介するのがこちら「オトナール」です!!

(放送)あの山海経高級中学校で配合された特殊な漢方の効能によって、体の成長を急速に促し、飲むだけであなたもたちまち素敵な「大人」になることができるのです!!

なに……!!飲むだけで大人にだと⁈

……おっと、おいらとしたことが、さっきあんなものを平然と売ろうとしていた連中のことだ、どうせこれもインチキ商品に違いない‼

(放送)なんと今ならこのオトナールを、放送を見ている方限定で特別価格でご提供いたします‼この機会をぜひお見逃しなく‼

とはいえ、やはり気になるな……値段も大したことないし……。

あれを飲めば、おいらもカムラッドのような立派な「大人」になってこの学園の書記長としてふさわしい威厳が……?

(放送)受注期間はこの放送から一週間‼“数量限定”ですから決断はお早めに‼

(ごくり……)

……ええい‼さっきから黙って聞いていれば、“期間限定”だ、“数量限定”だ、なんだと急かしおって‼

……や、やっぱりだめだ!!ふん、この偉大なチェリノ様は、こんな下らない詐欺には決して引っかからないのだ‼

一瞬とはいえ、このおいらの心を惑わすとは危険な奴らめ‼ヴァルキューレにでも通報しておいてやるか。

(放送)お問い合わせはこちらの番……ちょっと‼放送中に何の用ですか‼

(放送)……え?ヴァルキューレがすくそこまで……あの薬を追って⁈

……?どうした、何かアクシデントか?

(放送)待ってください‼あの薬は山海経から流れてきたものに手を加えただけの“ただの栄養剤”じゃ……えっ……ということは“本物”……?

(放送)……ゴホン!!失礼いたしました。番組の途中ですが、ここで重大なお知らせがあります!!

(放送)先ほど紹介したこのオトナールですが、なんと本日に限り衝撃の一本1万円でご提供いたします!!

(放送)受付はこの放送から一時間!!今この放送を見ているそこのあなたは幸運です‼これが正真正銘のラストチャンス、ぜひ理想の姿をその手に……!!

(放送)突然ですが、番組の予定を変更し、今回の放送はここまでとさせていただきます‼それではまた来週お会いしましょう‼やばい早く逃げなきゃ……‼

な……何だって⁈今買わなければもう……。もし、あれがおいら以外の手に渡ったら……。

……何だか負けた気がするが、こうしてはいられない‼今すぐ電話を……!!
~数日後~

それしても遅いですねチェリノちゃん……このままでは、学園の予算会議に遅れてしまいます……。

寝坊はいつものことですが、少し心配ですね。
~レッドウィンター連邦学園・会長執務室~

ご休憩中に失礼します会長、この後、予算会議が控えていますのでそろそろ……えっ。

ちぇ……チェリノちゃん⁈……そのお姿は一体⁈
束の間の平穏
~シャーレの先生のオフィス~
“……ん?トモエからの電話だ。”

(通信)お忙しいところ申し訳ありません。実は、先生に折り入ってご相談がありまして……。
“トモエからなんて珍しいね。”
“何でも言ってね、力になるよ。”

(通信)ありがとうございます。しかし、どこからお話しすればよいのか……まずはこちらをご覧ください。
添付された写真を見ると、そこにはかつての面影をわずかに残しながら凛々しく成長(?)したチェリノの姿が写っていた。
“流石成長期、見ないうちに随分大きくなったね‼”
“それにしても凄い完成度だ……有名なコスプレイヤーかな?”

(通信)先生、私がこんな冗談を言うためにわざわざ連絡したと思いますか?信じられないかもしれませんが、この写真に写っているのは紛れもなくチェリノ会長本人です……。
“うっ……噓だ……信じられない‼”
“最近、忙しかったからかな、きっと悪い夢を見ているに違いない。”

(通信)先生……一番信じられないのは他でもない私なんですよ……。
それから、トモエに事件の経緯を説明してもらった。ある日突然、チェリノが大きくなったこと、会長執務室で空になった怪しい薬瓶を発見したこと、その後のチェリノの様子など全て……時折、消え入りそうになるトモエの声から彼女が心底不安がっているのが伝わった。

(通信)医療機関も受診したのですが、この学園の医学では原因を突き止めることが難しいようで……他学園の事情にもお詳しい先生なら何かご存知なのではと思い連絡させていただいた次第です。
“一応、心当たりはあるんだけど……。”
“今回と「正反対」なんだよね……。”

(通信)やはり何かご存知なのですね……‼それを聞いて少し安心しました……。

(通信)あのお姿になられてからというもの、まるで人が変わったように、レッドウィンターの生徒会長として誠実に執務に当たられるようになりまして……。
~数日前~

い……以上が建設のスケジュールとなっております。いかがでしたでしょうかチェリノ会長……?

素晴らしい。流石だと言っておこうか。

この工場はレッドウィンターの発展に決して欠かせないものだ。何よりも優先して建設に注力してほしい……と言いたいところだが、その建設を担う工務部の諸君らもまた、この学園に欠かせない貴重な存在であることもどうか忘れないでいてほしい。

それだというのに、どうやら私は今まで諸君らに対する敬意が欠けていたようだな……ここで謝罪させてほしい……。

チェリノ会長……‼

あの会長が頭を……夢でも見ているのか……?

諸君らの働きに対する対価として“配給のプリンを2倍”に……と言ってやりたいところだが、自由と平等をモットーに掲げている以上、それでは他の生徒に示しが付かないのでな。代わりと言っては何だが、諸君らには特別髭勲章を授与しよう。

身に余る光栄です……チェリノ会長‼これからも工務部として粉骨砕身の覚悟で学園に尽くしてまいります……‼

フフッ……期待しているよ。

………………。

(通信)秘書室長として大変喜ばしい事ではあるのですが、どうしても何か引っかかるのです。他の方たちは気付いていないようなのですが、今のチェリノ会長からは、得も言われぬ“不気味さ”を感じるのです……私の杞憂だとよいのですが……。

(通信)幼稚で横暴で怠惰なチェリノちゃんに戻ってほしいなんて私のエゴかもしれません……しかし、あれが正常だとは思えません。副作用の心配もありますし、“もしもの時”のために一緒に解決策を探していただけませんか?
“分かった、そういうことなら喜んで協力するよ。”
“薬の件はこっちで調査してみるよ。何かあったらまたいつでも連絡してね。”

(通信)感謝します先生……‼それと、このことはどうかご内密に……仮にも学園を束ねる生徒会長が、正体不明の病に侵されていると他学園に知れ渡れば、隙を見せることになりますから。
“通販番組で買った怪しい薬で「大人」に、か……。”
“まずは、あそこに行って聞いてみよう。”
~レッドウィンター連邦学園・会長執務室~

トモエ秘書室長、午後からのスケジュールはどうなっている?

はい、チェリノ会長、2時間後に学園内の部活視察を予定しております。初めに視察するのは出版部、続いて知識開放前線、兵器開発部という予定になっております。

そうか、急ですまないが、知識開放前線の視察は日を改めてもらえないかな?今回の視察を実りあるものにするためにも、時間には余裕を持たせたいのだ。

承知いたしました。知識開放前線にはその旨をお伝えしておきます。

いつも助かっているよトモエ秘書室長。

もったいないお言葉ですチェリノ会長、秘書室長として当然の務めですから。
~レッドウィンター連邦学園・工場地帯~

………………というように、現在、我が部は装甲戦闘車両をはじめとした陸戦兵器開発に特に力を注いでいます。しかし……

しかし……?

会長の前で大変申し上げにくいのですが、現在、予算の関係で開発が滞っておりまして……。特にここ最近は、誰に影響されたのか部員のストライキも多く、兵器の生産数も減少の一途をたどっているというのが現実です。

そうか、なるほど……ところで工場長、一つ質問があるのだがいいかな?

兵器開発の予算を今の“3倍”にすると言えば、諸君らはどれほどのものが作れるかな……?

ちぇ……チェリノ会長、それは……。

ハハハッ‼チェリノ会長、こんな時に何の御冗談を‼

我がレッドウィンター連邦学園は現在、軽度の財政難、食料の配給すら満足に行き届いていないのが現状ですよ。

学園の軍事力も守るべき生徒がいてこそ‼当面は学園内の経済安定に尽力するほかないでしょう。

フフッ……間違いないな。すまないマリナ委員長、ほんの出来心で聞いてみただけだ、真に受けないでくれ。

しかし、そうですねぇ……もし本当にそれほどの予算をいただけるなら、我が部の意地とプライドにかけてキヴォトス三大学園に迫る力を会長に献上することを約束しましょう‼

……素晴らしい。

………………。

「その言葉、決して忘れるなよ。」
~ヴァルキューレ警察学校・公安局~

“飲むだけで大人になる薬”ですか……そのことなら、ミレニアムの生徒が関わっている例の事件のことで間違いないでしょう。丁度我々も調査中でして、いいタイミングで来られましたね先生。

生憎、犯人は取り逃がしましたが、潜伏場所から発見された顧客情報と薬物の搬送ルートから購入者は全て特定し、医療機関への引き渡しも完了しています。

今のところ軽度の吐き気やめまいを訴えるだけで、その他に目立った症状は見られないようです。ましてや「大人」になるなど……。

薬物の成分も調査中ですが、山海経でしか手に入らない漢方薬が多く使われている上に、どの薬も微妙に配合量が違うようで鑑識も苦戦しているようです。まったく困ったものです……。

近年、キヴォトスでも社会問題になっていますからね、この件を受けて生活安全局には違法ドラッグ乱用防止の啓発活動を―
“(つまり……たった一本の「当たり」が)”
“(よりにもよってチェリノの元に……)”

どうかされましたか先生?随分顔色が悪いようですが……。
“カンナ、無茶なお願いかもしれないけど……。”
“その薬、何本か譲ってくれないかな……?”

……いったい何の目的で?
“………………”

……冗談ですよ。先生のことですから何かお考えがあってのことなのでしょう。話しづらいようでしたら今は聞かないでおきます。

薬物なら私が鑑識に掛け合っていくつかこちらに回すように手配させましょう。
“恩に着るよ……この埋め合わせは必ず。”
“今度また、あの屋台でも一緒にどうかな?”

楽しみにしていますよ。
~レッドウィンター連邦学園・会長執務室~

トモエ秘書室長、急な用件で済まないが、3日後の会談を午後にずらし、正午に全校生徒へ向けた“演説”をさせてはもらえないだろうか……?

はぁ……それは構いませんが、どうしてまたこのタイミングで?

私は、この身体になってからこれまで失った信用を取り戻そうと尽力してきたつもりだったが、残念ながらまだ学園内での求心力が高いとは言い難い。

学園の創設記念祭も近いことだ、そこで一度、皆の前に立ち生徒会長としてこの学園の展望を表明することで、以前の私とは違うことを同志たちに改めて示したいのだ。

チェリノ会長……そういうことでしたら喜んで日程調整の方を進めさせていただきます‼

感謝するよトモエ秘書室長、当日は必ずや“素晴らしい一日”となることだろう……。
絶対零度の独裁者
~レッドウィンター連邦学園・赤ひげ革命広場~

おはよう、レッドウィンターの同志諸君。生徒会長の連河チェリノだ。

学園の創設記念日を間近に控え、各種準備に追われている中、時間を取って済まない。しかし、記念日を目前とした今だからこそ、生徒会長としてこの学園がこれから歩むべき道を改めて示したいと思う。

この学園の設立から早数百年、キヴォトスは今、大きな転換期を迎えようとしている。

新興学園であったミレニアムがその目覚ましい技術発展により、ゲヘナやトリニティと並ぶキヴォトス三大学園と呼ばれるようになってから久しく、彼女たちのもたらした発明品の数々は我々の生活をより豊かにした。

また、シャーレに赴任した先生の尽力により、学園間の交流は活発化し、新たな技術や文化、価値観の流入が諸学園の更なる発展を促した。

それに対して我々はどうだろうか?度重なるクーデター、頻発する政権交代とそれに伴う外部交渉の停滞、いつまでも足踏みしてばかりだ。観光業に光明を見出した学園もある中、この学園にはそれすらない。この数十年で我々は大きな後れを取った……。

抑圧と反発を繰り返し不安定ながらも今日まで学園を存続させてきた我々だが、学園内の情勢に注視する一方で他学園の動向に少々鈍感になっていたのではないか?この学園さえ平和なら……自分の身の回りさえ……今日さえ平穏に過ごせるならそれでいいと……。

しかし、その考えが命取りになる……‼

(なんだかチェリノちゃんの様子が……それにこの声……聴いているだけで頭が……‼)

会長の失踪により連邦生徒会が機能不全となったことで、これまで絶妙な均衡を保っていたキヴォトスのパワーバランスは崩壊しつつある‼

連邦政府の管理から外れ、今まで押さえつけられていた学園間の競争意識は再燃し、自学園に対する不安や焦燥感は、際限のない軍備拡張へと繋がっていく。

力を持つ学園は、より強大に……そればかりか、大学園同士で同盟を結び、その力をより盤石なものにしていくだろう。先のエデン条約調印式がその最もたる例だ。

そして、力なき学園は、選択の余地もないままこれら大学園に蹂躙され、搾取され、支配され続けるのだ‼

私はこのレッドウィンターにそのような弱小学園になってほしくはない。これから始まるであろう熾烈な学園競争に我々は乗り遅れるわけにはいかないのだ‼

何故、私がこれほどまでに焦っているのか、今から映像に映し出されるものを見れば諸君らも少しは理解できるだろう……。

これまで事務局の情報統制により、諸君らが決して見ることのできなかったこの世界の“真実”をお見せしよう。

何なのよあれ……本物の映像なの⁈恐ろしい……。

あれは“兵器”なのか?あんなものが実在しているなんて……。

それはマズイですよチェリノちゃん……!!そこをどいてください‼今すぐ会長の演説を止めさせてください!!

しかし……会長から誰であっても通すなと……。

こんな時に何を言っているのですか⁈このままでは……!!

トリニティで使用された巡航ミサイルに、ミメシスと呼ばれる霊体兵器、そして、アビドス、ゲヘナ両学園が権利を有するという列車砲シェマタ、信じられないかもしれないが、どれも我が学園の諜報員が入手した確かな情報だ‼

極めつけは、“赤い空騒動”の折に使用された“超古代兵器”だ……シャーレの先生や連邦生徒会の協力があったとはいえ、あんな代物を我らレッドウィンターの力なしに、主要学園四校の生徒によって起動させたというではないか……‼

この人智を超えた恐ろしい兵器と、それを操ることができる者がこの学園の外には確かに存在している……世界を終末へと導くボタンが今も生徒の手に委ねられているのだ‼

これで理解できたか‼これら超兵器の銃口がいつこの学園に向けられるのかわからないのだ‼その時、これまで諸君らが当たり前のように享受してきた平和は一瞬にして奪われるだろう‼

その日が来るのは、1年後か……1ヶ月後か……いや!!明日かもしれないのだ……!!我々は討たれる前に討たなければならない‼

我々は武力をもってこの学園の平穏を脅かす全ての障害を排除する‼この学園の力と権威をキヴォトス全土に思い知らせるのだ‼

それに伴い、今日をもって学園全てのリソースを極限まで軍拡に集中させる‼無論、賛同できないという者は学園の反逆者とみなし即刻粛清する‼

しばしの間、諸君らには苦しい生活を強いることになるかもしれないが、それも長くは続くまい。後の戦に勝利すれば自ずと経済は回復する。“配給のプリン3つ”も夢ではないぞ……。

……同志諸君らの懸命な働きを心より期待している。レッドウィンター連邦学園に永久の栄光があらんことを。

と……トモエ秘書室長、これは……。

最悪の事態になってしまいました……至急、シャーレの先生に連絡を‼
~サヤの研究室~
“……そういうことがあって。”
“レッドウィンターのチェリノが……。”

なるほど……数の合わなかった「若返りの秘薬」の謎が少しだけ解けたのだ。まさか巡り巡ってレッドウィンターに流れ着くことになるなんて……。

薬を持ち逃げした疑いのある部員はこっちでも調査中なのだ。カイ先輩の息のかかった生徒なのか、それとも“別の誰か”なのか……。

いや、そんなことは後回しでいいのだ。今は解毒薬を調合することが最優先なのだ。交流会の件でチェリノ会長殿には大きな恩がある……ぼく様が必ず助けてみせるのだ……!!
“ありがとうサヤ‼……ん?トモエから連絡だ。”
“動画が添付されてる。こ……これは……。”

これって……もしかしなくてもかなりヤバイんじゃ……。

これが、本当にあのチェリノ会長殿なのか……?

これはマズいのだ……急激に成長した身体と知能に精神が追い付いていない……それにこの声は何なのだ……?動画越しでも伝わる緊張感、成長したのは“身体だけじゃない”……?

ともかく急ぐのだ‼どうやら事態は、ぼく様たちが思っている以上に深刻になりそうなのだ。
氷の牢獄
~レッドウィンター連邦学園・図書館~

あーその……もう一回言ってくれる?途中から話が頭に入ってこなくて……。

……廃部だ。本日付で知識開放前線は、「廃部」だと言ったのだ……。

冗談……だよね……?学園の政策が変わったのは知ってるけど、何もいきなり……。

あんまりですよ‼各部活に散らばったお金を回収するって言ったって、元々私たちには大した予算も出してくれてなかったじゃないですか‼

お前たちの言いたいことは分かる。だが、これも会長の命令なんだ……私たちも逆らえば何をされるか……。頼む、今はおとなしく命令に従ってくれ。事態が収まれば、部活が再開できるように私も上に掛け合うことを約束する……‼

「収まれば」って……それで、退部させられた私たちは、どうするってわけ?

文化部のお前たちは、おそらく兵器開発のライン工に回されるだろう。命令に従っている限り、身の安全は保障されているが、もし逆らえば……。

すでに少なくない数の生徒が反逆罪で粛清されている……。私も本は好きだ、お前たちにはどうか生き残ってほしい。

どうしましょう……メル先輩……。
~レッドウィンター連邦学園・会長執務室~

リストにあった部活の解体は順調に進んでいます。会長の予想通り、このままいけば兵器開発の予算は前年比の300%に到達するかと。

よろしい……次は生徒たちへの配給だが、明日からは―

失礼します‼チェリノ会長……。

随分慌てているようだが何かあったか?

それが、工務部の者たちが依頼内容に対して抗議したいとすぐそこまで……。

……そろそろ来る頃だと思っていたよ。通してやれ。

これは一体どういうことだチェリノ会長!!兵器工場の増設……建設するものもそうだが、工期に人員、どれをとってもめちゃくちゃだ!!それに一番気に食わないのは、この予算だ!!私たちにタダで働けというのか⁈

初めからそうだと言っているのだが、何か問題でもあるのか?

お前たちはまだ自分の置かれている立場が理解できていないようだな。おい、奴らをここに連れてくるのだ。

……っは……ハイ‼今すぐ‼

…………!!!!

ぶ……部長……お久しぶり……ですね……。

み……みんな……お前たち……なんてことを……。

私としては「脅し」のつもりだったんだが、ひょっとすると勇敢な工務部の諸君らにはこの程度では「挨拶」にもならなかったかな……?

……もう一度だけ聞こうミノリ部長、やるのか?やらないのか?

あ……あたしは……………………。

……逃げ出したか。まぁいい、代わりならいくらでもいる。この工場が完成した暁には、我々の計画は次のステージへ移行する。

我が学園の力を示す良い機会だ。手始めに「ゲヘナ学園」から攻め落とそうではないか……‼

ゲ……ゲヘナ学園でありますか会長……。

ああそうだ、奴らは、我々との交流会に際してクーデターを企てたに飽き足らず、私が送ってやった彫像を破壊したそうではないか。まったく度し難い連中だ。

それに私怨だけではない。エデン条約が書き換えられ、列車砲シェマタも破壊されたことで戦力が低下した今が攻め時だ。「空崎ヒナ」の存在だけが少々気がかりだが、どれだけ優れていようとも、一人の生徒の力など学園を支配する我々にとって脅威ではない。

来たるべき戦いに備えて、周辺の小・中規模校への圧力を強めろ。今は資源がいくらあっても困らない。奴らには、抵抗するなら武力行使も辞さないと伝えておけ。

レッドウィンターの栄光はすぐそこまで……。
~レッドウィンター連邦学園・雪山~

さぁ……早く、ここをまっすぐに進めば、今は使用されていない保安局の駐屯地があります。そこでならこの寒さを凌げるはずです。

皆さんのことは、粛清済みとして事務局の方で処理しておきます。もう追手が来ることはないでしょう。

お手を煩わせて申し訳ありませんトモエ秘書室長……あなたがいなければ我々は今頃……。

謝らなくてはならないのは私の方です……申し訳ありません、あともう少しだけ耐えてください。チェリノ会長は私が必ず……。
プルルルル……

この番号は……。

(通信)ようやくつながったのだ‼ご無沙汰なのだトモエ秘書室長殿‼いつぞやの交流会のお礼を……って、今は謝罪が先か……?

そのお声は、サヤさんですね……‼もしかしてシャーレの先生からお声を……?

(通信)そうなのだ‼先生には、材料の買い出しに行ってもらっているのだ。例の薬の解毒薬ならもうじき完成する……‼いろいろと迷惑をかけて申し訳なかったのだ。

そんな……サヤさんが謝る必要なんてありませんよ。これで突破口を開くことができます‼

ですが、少し不安なのです……あれがチェリノちゃんの未来の姿だと言うのなら、仮に元に戻ったとしても、いずれまた……。

(通信)弱気になっちゃダメなのだトモエ殿……!!ぼく様は、あれがチェリノ会長殿の未来の姿だとは思わない。あれは、あるべき過程を飛ばした“偽りの大人”……共に支え合う人たちがそばにいれば、ぼく様の知るチェリノ会長なら絶対にあんな風にはならないのだ……!!

サヤさん……ありがとうございます。そうですね、こんな時こそ心を強く持たなくては……。

解毒薬ですが、できるだけ急いでいただけると助かります。軍備拡張も着々と進み、他学園への侵攻が目前に迫っているのです……。今は一日でも惜しいくらいです。

(通信)分かっているのだ。明日にでもそっちに向かって先生と出発するから、もう少しだけ辛抱してほしいのだ‼

……待っていますよサヤさん‼

(通信)……ということですが、どうなされますかチェリノ会長。

やはり出来すぎた側近を持つのには苦労するな。
~レッドウィンター連邦学園・会長執務室~

失礼しますチェリノ会長、要件があるとお聞きしたのですが……。

……突然だがトモエ、お前を“反逆罪”で粛清する。

ど……どうしてですかチェリノ会長、私は何も……。

とぼけても無駄だ、お前の企みに私が気付いていないとでも?裏でこそこそと他学園の生徒と連絡を取り合っていたことは諜報員の調査によって判明している。

お前ほどの秀でた才能を持つ生徒を私が“ノーマーク”にするわけがないだろう。お前の力には随分と世話になったが、もう用済みだ。

これまでの実績を考慮して温情をかけてやりたいところだが、それでは他の生徒に示しが付かないのでな。あの時のように追放した生徒たちを扇動されても困る、お前は校舎裏の湖に沈めてやる……‼

チェリノちゃん……。

…………!!チェリノ会長!!

……何の真似だ?マリナ委員長。

もう我慢なりません!!こんな政策、絶対に間違っています!!私の知る会長はこんな……お前は一体誰だ!!

何を言い出すのかと思えば……銃を下ろせマリナ委員長。お前は、保安局の委員長として部下からの信頼も厚い、ここで失うのは惜しい。今なら考え直してやるぞ。

……トモエ秘書室長こちらへ!!

マリナ委員長⁈

絶対に逃がすな‼追え‼

……後始末は任せたぞ。
~レッドウィンター連邦学園・雪山~

しまった……行き止まりか。だが、この崖の下は確か……。

ここまでです、マリナ委員長、大人しく学園に戻ってください、今の私たちにはあなたが必要です……今なら会長もお許しになるはずです。今一度お考えを……。

悪いがそのつもりはない……今のレッドウィンターに保安員として守るべきものなどない。トモエ秘書室長、私の手を離さないように……。

マリナ委員長、一体何をお考えで…………きゃっ‼

落ちた…………。

学園に引き上げるぞ、この高さでは捜索の必要もないだろう……。この事を会長に報告するのだ。

……………………。

…………はっ‼これは……雪がクッションに……。

お怪我はありませんか?トモエ秘書室長。

えぇ……何とか軽い打撲で済みました。……まさかこのことを知っていて?「完璧に学園の地理を把握している」というのは妄言ではなかったのですね。

委員長として当然です‼しかし、これからどういたしましょうか……連れ出した私が言うのもなんですが、もう学園に帰ることはできそうにありません……。

“あの場所”へ向かいましょう、あそこがこの学園の最後の“希望”になります。先生にもこのことを連絡しておかなくては。
~サヤの研究室~
“全部廃棄してしまって本当に良かったのサヤ……?”
“サヤにとっても重要な研究なんじゃ……。”

これでいい……もうこの薬に振り回されるのはごめんなのだ。それに今回の事件でぼく様も少し考え方が変わったのだ。

ぼく様もカイ先輩も、薬で得られる“結果”ばかりに固執して、あるべきはずの“過程”を蔑ろにしてしまっていたのだ……。大丈夫、研究はまだ始まったばかり、これからは別のアプローチで神仙に至る方法を模索するのだ‼

さぁいつまでもこうしちゃいられない‼レッドウィンターへ急ぐのだ!!
~レッドウィンター連邦学園・入校管理局~

ですからレッドウィンターは現在、往来が厳しく制限されておりまして……。

冗談じゃない‼早くミレニアムに帰らせてよ‼学会が近いんだから!!

お前じゃ話にならない‼今すぐ責任者を出せ!!

私たちだってこんなことはしたくないのに……。
“トモエから聞いた通り……。”
“なんだか大変なことになってるね……。”

「ちょっと観光に」なんて言って通してもらえる雰囲気ではないのだ……。

ちょっと‼金属探知機もX線もパスしたんだから荷物勝手に開けないでよ!!

そう言われましても……今は往来するすべての荷物に目視でのチェックが義務付けられておりまして……。

あれじゃ定番の「荷物に隠れて……」なんてことも無理そうなのだ。

……仕方ない。先生、ぼく様に考えがあるのだ。

ぼく様が騒ぎを起こして職員の注意を引き付けている間に先生はゲートを突破するのだ……!!

本当は最後まで付いていきたかったけど、こうなった以上これしか手段はないのだ。それと先生、コレを。
“これが解読薬、レッドウィンター最後の希望……。”
“こんな事をしてサヤは大丈夫なの?”

安心してほしいのだ‼こういうことは“初めてじゃない”、うまく逃げ切ってみせるのだ!!
“ありがとう……サヤ……。”
“必ず届けてみせるよ……!!”

そうと決まれば、いっちょひと暴れといくのだ!!
ダダダダダダッッッ!!!!

なっ……何だあれは⁈

こちら入校管理局ゲート前、ロビーで銃を乱射するイカれた奴がいる!!至急警備を寄こしてくれ!!

クソッ‼政府の迷走に今度は空港ジャックか⁈とことんツイてない!!……ん?今、誰か通ったような?……おい‼そこの侵入者止まれ!!

あれは確かシャーレの……あの方ならもしかすると……。

おい‼密入校者の追跡は後にしろ‼今は往来客の安全確保が最優先だ!!

頼んだぞ……この判断が英断であったことを祈る……。
~レッドウィンター連邦学園・山道~
“何とか無事に学園に入校できたのは良いものの……。”
“ここはどこ……?”
忘却の地に集う者たち
~レッドウィンター連邦学園・旧校舎~
“んっ……いつの間に……?”
“さっきまで雪山にいたはずじゃ……。”

先生……!!やっとお目覚めになったのですね!!本当によかった……気絶した状態でここに運び込まれたときはどうなることかと……。
“……ノドカ⁈”
“ということはここは……。”

そう、ここはレッドウィンターの旧校舎。山道で気を失って倒れていた先生を偶然通りかかったタカネたちが運んでくれたんだよ。この広い学園で遭難中に発見されるなんて相当運がいいよ。

ご無沙汰しております先生。再びお会いできてうれしい……と言いたいところなのですが、生憎今はそれどころではなくて……。もっと別の形でお会いしたかったですわ。
“感謝するよ……タカネ。”
“それにしても、出版部のタカネたちがどうしてここに?”

それは……。

……チェリノ会長に「粛清」されたからですわ。

現在、レッドウィンターは、チェリノ会長の声明発表によって軍備拡張のため突然政策が変更されましたの。それに伴い我々出版部も事務局の監視の元で現政権を賛美する記事“のみ”を出版させられていたのですが……。

もう我慢ならないと、他の部員たちと共に抗議したのですが、まるで聞く耳を持たない事務局によって有無を言わさず粛清が言い渡されましたの。

そして、失意のまま旧校舎に向かっていた途中で、倒れていた先生を見かけて今に至る……という訳ですわ。
“事態はそこまで深刻に……。”
“ヤクモはどうしているの?”

ヤクモ部長は……出版部を守るために事務局の無茶な要求を呑んで部に残ることになりましたわ。今もまだ、粛清を免れた僅かな部員と共にプロパガンダ記事を出版させられていると思いますが、それもいつまでもつか……。

これからこの学園はどうなるのでしょうか……。優れた指導者を選挙により選出するのは我々有権者の責任ですが、すでに生徒会長の座にいる者がああも豹変してしまっては手の打ちようがありませんわ……。

あれれ?あんたもここに飛ばされてたんだ。もう少し利口な奴だと思ってたけど。

その声は、知識開放前線の……‼

“元”だけどね……私らも昨日付で粛清されたのよ。

学園全体が軍拡一色になっている今、図書館の運営なんかに割く予算はないってわけ。

正直、政治とか、他学園の超兵器とか、そんなのよくわかんないけど、ただ一つ言えるのは戦争なんて真っ平御免ってことだけだよ……。

それには同感ですわ……。

一応「知識開放前線」の名に恥じないように最後まで抵抗は続けたんだけど、結果は御覧の有様だよ。

私らみたいな過激派の部員は全員粛清、残った部員たちもみんな保安局に連れて行かれちゃった……。

知識と教養は学園の発展に欠かせない重要な基盤なのに……それを捨ててしまった今のレッドウィンターに未来はありません……。

そういうことだから、悪いね、私たちもしばらくここに厄介になるよ。

何だか大所帯になってきましたね……これじゃ特別“クラス”どころの規模じゃなくなりますよ……。

それだけ、今のチェリノ会長の権威は絶対的ということだね。もうあの学園に会長に歯向かう根性のある生徒はいないんじゃない?

はぁ……どうしてこんなことになってしまったのでしょう。それにしても先生、どうしてあんなところで倒れられていたのですか?それも、そんなケースを大事に抱えながら……。
ノドカたちにここまでの経緯を説明した。

そんなことがあったのですね。大人になる薬ですか……にわかには信じがたいですが……。

ビッグニュースどころの騒ぎではありませんわね……。今、出版部に在籍していないことが悔やまれますわ。

余りの変わりっぷりに替え玉説なんかも噂されてたけど、まさか正真正銘チェリノ会長本人だったとはね。

そしてこれが、その解毒薬っていう訳ね。先生の話だし私たちは信じるけど、もしそれが本当だとして……。

どうやってチェリノ会長の元まで届ければいいのでしょうか……。

ノドカちゃん‼お話し中に悪いけど急いで正面玄関に来て‼大変なの……。

今度は一体どこの誰が粛清されたんです……「チョコミント開放前線」ですか、それとも……。

それが……。
~レッドウィンター連邦学園・旧校舎正面玄関~

ふざけるな‼お前たちのせいでこの学園は……私たちは……‼

頼む……話を聞いてくれ……‼

あの二人は……‼

何をやっているのですか‼今すぐ銃を下ろしてください‼あの怪我が見えないのですか⁈

そっちこそ何を言っているんだ‼あいつらは……‼

頭冷やしなよ、あの二人があんな重傷を負ったまま、それも護衛も付けずにこんな所に来た“理由”なんて考えなくても分かるでしょ……。

…………!!すまん……頭に血が上っていた……持ち場に戻るよ。

ありがとう……分かってくれて。

頼む……私のことはいい‼トモエ秘書室長を……!!

やせ我慢しない、あなたも酷い怪我なんだから。
~数時間後~

これ飲みなよ、温まるよ。安心して、変なものとか入れてないからさ。

……恩に着るよ。それにしても私たちが学園の追手から逃げている間にこんなに多くの生徒が粛清されていたとは……それに先生まで。

しかし、こうして先生と合流できたのは不幸中の幸いです。おかげで解毒薬も手に入りました。後は……。

マリナ委員長、皆さんをロビーに集めていただけませんでしょうか?レッドウィンターの未来を決める会議を始めましょう。
人々の英断

それで?この悪夢を終わらせる“秘策”があるって聞いたんだけど。

はい。ここで一度、現在の状況をおさらいしておきましょう。

現在、レッドウィンターは、チェリノ会長による大幅な政策の変更で、学園のリソースは極限まで軍備拡張に回されています。会長による弾圧で政策に異議を唱える生徒は全て“反逆罪”と見なされ追放されました。準備も着々と進み、他学園への侵攻も計画されているようです……。

レッドウィンターの主力戦力である保安局も、この大規模な粛清の波を受け、大幅な組織改編を余儀なくされました。戦力を補うために解体した各部活から徴兵し、部員数こそ以前より増えたものの、指揮系統はまだ整っていません。

特に末端部分の構成が不完全で、本来なら駐在の保安員が対応するようなトラブルでも今は本部が出動せざる負えない状況となっています。

つまり、遠方で騒ぎを起こせば起こすほど、本部の警備は手薄になる……?

そうです。我々の目的は「チェリノ会長にサヤさんからいただいた解毒薬を投与する」ただそれだけです。武力による完全制圧は必要ありません。

ほんの数十分で構いません‼私と先生がチェリノ会長の元にたどり着けるように、皆さんで保安局の戦力を分散させていただきたいのです!!

「陽動作戦」という訳ですか。正面突破だったイワン・クパーラとは真逆ですね!!

まぁ、そもそも今の私たちに保安局と全力でやりあう力は無いわけだし、それしかないよね。

(通信)面白いじゃありませんかぁ、その話、我々も一枚噛ませてもらいますよ!!

部長……⁈何か策でもあるのですか?

(通信)えぇ……現在、出版部は事務局監修の元、チェリノ会長を称賛するプロパガンダ記事のみを出版させられている状況です。

(通信)それが突然、手のひらを返して会長や現政権を糾弾する記事を出版すればどうなるか……ムフフフ。

(通信)多いとは言えずとも、ある程度の保安局員を誘い出すことができるでしょう。ここは中々の僻地ですからね、かなりの時間稼ぎはできると思いますよ~。

しかし、そんなことをすればあなた方は……。

(通信)無論、全員粛清でしょうね。しかし、私もそろそろうんざりしていましてねぇ、命令に従い、言われた通りの内容を執筆するだけの記事など……。

(通信)決して義理や人情、大義などのために戦うのではありませんよ。大きな利益が望めるから協力するのです。学園内では検閲の厳しさに比例するように、反戦、政治批判、ゴシップ記事の需要は高まっていますからねぇ。これは売れますよぉ……‼

(通信)そして、この戦いに勝利すれば、今度はこの革命運動をもとにした記事が書ける……一度で二度おいしい仕事ではありませんか。出版部の部長としてこのチャンスを逃す手はありません。

(通信)こんな日のために“ネタ”はたんまりとため込んでいます。チェリノ会長の“真実”を余すことなく……いえ、“盛りに盛って”世間にお届けいたしましょう!!

部長……‼そうと決まれば腕が鳴りますわね……!!

そういうことなら私たち知識開放前線も力になるよ‼図書館は閉鎖されたとはいえシステムはまだ生きてるはず、このタイミングで政治批判や革命意識を促す書籍を大量展開すれば、あいつらもすぐに駆けつけてくると思うよ。

「学園がダメになるか ならないかなんだ やってみる価値はありますぜ!」ってやつ?王道だけどやっぱ燃えるよねこういう展開……!!

私も戦います……‼あの生意気なチビに一泡吹かせてやるんだから‼……って、今はチビじゃないんだっけ……。

皆さん感謝します……!!しかし、これではまだ決定打に欠けます……本人にはすでにお伝えしているのですが……。

ミノリさん、“例の件”ですが、あれから考えは変わりませんか……?

ミノリ……?彼女にいったい何を?

ミノリさんには、その巧みな話術を活かして、学園に残った多くの工務部員やその他生徒を味方につけるべく“演説”を行っていただきたいのです。

本来ならこういった仕事は私の役割なのですが……事が事ですから、今までチェリノ会長の側近として、決して少なくはない生徒を敵に回してきた私では説得力に欠けるのです……。

できない……やっぱりあたしには無理だ……。あの会長の恐ろしさを前に一度逃げ出してしまったあたしには……。

今のあたしにできることなど何も……。

ミノリ……。

……時間まだあります。作戦実行は十日後としましょう。各自、それまでに準備などを進めておいて下さい。
“十日後……その日ってたしか。”
“レッドウィンターの「創設記念日」だったよね。”

そう、この作戦を実行するのに“ふさわしい日”だとおもいませんか?

ふふっ……できすぎたストーリーですわね……私が編集者ならこんなネーム一発でボツにしますわ。

まったくその通りですね。でも、だとしたらこの物語の結末はきっとハッピーエンドです‼
“私も最後まで協力するよ。”
“この物語の結末を見届けるために‼”
~決戦前夜~
~レッドウィンター連邦学園・旧校舎正屋上~

見えますか?あそこに見えるのがこぐま座を構成するポラリスとコカブですよ。

うわぁ~とっても綺麗です‼普段、部屋にこもってばかりで、夜空を見上げる習慣なんて無かったですが、こうしてみるといいものですね……。

星座にまつわる神話ってのも面白いね。三角関係に禁断の恋……うふふ……創作意欲が搔き立てられるじゃん。

まったく……見上げたクリエイター根性ですこと……あっ流れ星ですわ‼

あっちにも‼珍しい……こんな時期に流星群だなんて……。

お願いします……あの時、買えなかったルリエル様の絶版本をどうかもう一度……‼

そこは、明日の勝利を願おうよ……。
~レッドウィンター連邦学園・旧校舎~

そんなところで難しい顔してないで、ほら、マリナも一杯どう?

おい、これはまさか……。

心配しないでただのカンポッドだよ。ただ、ちょっと“発酵”してるかもしれないけど。

はぁ……お前というやつは……まぁいい、ぜひいただこう。ゴクッ……はぁ……。

さすが保安委員長様、いい飲みっぷり。さっきからどうしたの?決戦前夜でナーバスにでもなっちゃった?

ハハッ……まさか、私はかつてレッドウィンターの秩序を守る保安局の委員長を務めた池倉マリナだぞ……‼この程度の窮地どうってことはない‼

ただ、皆の姿を見て少しセンチメンタルになっていただけだ……。

今ここに様々な部活の生徒が一堂に会している。これまで良好な関係だったとはとても言えない、揉め事やいざこざも数え切れないほどあった。

だが、そんな者たちが未曾有の危機に対して、一丸となって立ち向かおうとしている。これこそ本来あるべき学園の姿だと思わないか?

私も保安局に志願した時、そんな学園に貢献するべくこの身をささげると誓ったはずなのに……どうやら出世に目がくらんでいつの間にか忘れてしまっていたらしい……。

マリナ……もしかして酔ってる?

決めたぞ……‼この戦いに勝利した暁には必ずや保安局に復帰して組織の改革を行って見せる‼私は、これまで以上にレッドウィンターのため―

ふふっ……やっぱり酔ってる……。
~レッドウィンター連邦学園・旧校舎~
“大丈夫ミノリ?みんな心配していたよ。”
“これ、良かったら飲んで。シグレがミノリにって。”

ありがとう先生。そうか……皆はもう、決心がついているのだな……明日の決戦の。

情けない限りだ……あたしだけだ、いつまでも会長の力に怯え、果たすべき使命から逃れようとしているのは……。

ミノリさん……。

大丈夫ですよ……気丈にふるまっているように見えますが、怖いのは皆さんだって同じです。作戦前日だというのにまだ誰も眠りについていないのがその証拠です。そして、私もその一人……。

それでも皆さんが希望を捨てずにいられるのは、ここにいる皆が、互いに使命を果たすだけの力と覚悟があると信じ合っているからなのでしょう。

マリナ委員長となら……先生となら……そして、ミノリさん……あなたとなら必ず成し遂げられると……。

最後に人々を突き動かすものは、「真実」でも「嘘」でもなく、信じたいと願う「心」なのでしょうね。フフッ……何だか私らしくない言葉ですね……。

トモエ秘書室長……。
“ここにいる誰もがミノリのことを信じているよ。”
“だからミノリも、みんなのことを信じてあげてくれないかな?”

先生……。
“私からもお願いするよ。”
“シャーレの先生としてではなく、共に闘う「同志」として。”

あたしとしたことが……闘争心を失い、権力者の圧力に屈したばかりか、その権力の権化のような二人に説得までされてしまうとはな……。

おかげでようやく目が覚めた。あたしも皆を信じ、闘おう……。労働者としてではなく、この学園の一人の生徒として‼

こうしてはいられない‼早速明日の演説の原稿を書き上げなくては‼
“これで役者は揃った……。”
“いよいよ明日か……。”
動乱の創設記念日
~レッドウィンター連邦学園・会長執務室~

チェリノ会長……!!

こんな早朝から何の用だ?

そ……それが……まずはこちらの新聞をご覧ください……。

な、なんだ……これは⁈
~レッドウィンター連邦学園・印刷所~

さぁさぁ皆さん、ここが正念場ですよ。刷って刷って刷りまくるのです‼伝記、風刺画、漫画、小説、フォーマットは何でも構いません。あらゆる手段を講じてチェリノ会長を糾弾するのです!!

すでに我々の動きは事務局に察知されてることでしょう。時間が惜しい、手の空いている者は手書きでもいい!!一人でも多くの生徒に会長の真実、そしてその愚行を伝えるのです!!

馬鹿な……監視に付かせていた保安員は何をやっていたのだ……。

それが……数時間前から連絡が途絶えておりまして……。

愚か者め!!定期報告は怠るなとあれほど言ったではないか……!!

チェリノ会長……!!知識開放前線が閉館したはずの図書館を無断で開放し、規制対象の書籍の貸し出しを行っているようです!!

何だと⁈今度は、知識開放前線が……。
~レッドウィンター連邦学園・図書館~

さぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい‼今日限りで、事務局に規制されてた本を一気に大放出しちゃうよ~‼貸出制限なんてお堅いことは今は無し‼ジャンジャン持ってってお友達にも見せてあげちゃってよ!!

学生証の提示も要らないから足もつかない‼今日は安心して反戦思想にどっぷり浸かるといいよ。

凄い行列ですメル先輩‼本が飛ぶように借りられていきます‼まるで壁サーにでもなった気分ですよ!!

今すぐ奴らの行為を止めるのだ!!生かしたまま連れてこいなどとは言わん、徹底的に叩き潰せ‼他の生徒への見せしめにしてやるのだ!!

ただでさえこれまでの圧政で反政府意識が高まっているというのに、あんなことをされてはたまらん……力と恐怖で押さえつけていた民意が暴走する前に片を付けなくては……。

チェリノ会長!!

今度は一体どこのどいつだ……‼「唐揚げにレモンをかけることを許さない革命家集団」か、それとも……。

それが……227号特別クラスの生徒が“密造酒”と“シャーレの先生のスナップ写真”を売りさばいているとのことで……。

気でも狂ったか……もはや政治とは何の関係もないではないか……。
~レッドウィンター連邦学園・中央通り~

やぁみんな、こんな苦しいご時世じゃ日々の楽しみを見つけるのにも苦労するでしょ。どうかな?ここで“一杯飲んで”嫌な気持ちともおさらばしてみない?

安くしとくよ~今ならオマケであのシャーレの先生の写真も……。

ねぇ……シグレちゃん、私たちだけ何か違うような気がするんだけど……。

気にしちゃだめだよノドカ。それに、私たちが保安局の気を引く手段なんてこれくらいしかないでしょ。ほら、いい感じに注目を浴びてるよ、そろそろ通報されてる頃かな。

はぁ……これじゃあ、たとえチェリノ会長を倒しても私たちは227号特別クラスのままです……。

そんなに気を落とさないでノドカ。学園が無くなちゃったら停学どころじゃなくなるんだし、この戦いに勝ったらせいぜい笑顔で帰ってやろうよ。

それもそうだね……よし‼そうと決まれば今のうちにしっかりと売り込んでおいて、旧校舎での生活に備えなきゃ‼
~レッドウィンター連邦学園・旧校舎~

作戦は順調に進んでいるようですね、あと少しです。先生もそろそろご覚悟を決めておいた方がよろしいかと。

大丈夫か、ミノリ……?おい、そのカンポットは……。

あぁ……今朝、シグレからもらったんだ、緊張した時に飲むといいって……。「少し発酵しているかもしれない」なんて、アイツは言っていたが。

アイツらしい激励だ。

そうだな……後でしっかりと本人に返さなくては。そのためにも先生、この作戦、必ず成功させよう……!!
~レッドウィンター連邦学園・印刷所~

ヤクモ部長、もう限界ですわ……‼そろそろ逃げましょう‼

今更どこへ逃げようというのです?私は最後までここに残って戦いますよ。

何を言っているのですか⁈部長らしくないではありませんか……‼命あっての物種ですよ‼

そうかもしれませんねぇ、しかし、私も皆さんの熱にあてられてしまったようだ……。

今回の騒動ですでに部の多くの財産を廃棄させられている……これ以上、やらせはしませんよ……‼

この戦いで無事に生き残れば、私のこの勇姿を称える映画でも製作してやろうじゃないですか!!

まったく……演者が一人では寂しくなくて?私も出版部の一人だということをお忘れなく。

あなたも変わったお人だ……いいでしょう、後世に語り継ぐためには“目撃者”が必要ですからね。最後まで付き合っていただきますよ!!
~レッドウィンター連邦学園・図書館~

前回はあっさりやられたけど、今回は覚悟が違うんだから‼

こんな学園じゃおちおち創作活動もできやしない‼こっちはクリエイター生命かかってんのよ‼負ける訳にはいかないっての‼

日陰者を本気で怒らせると怖いことをたっぷりと思い知らせてやるんだから!!

本の申請を却下され続けた恨みここで晴らさせてもらいますよ……‼

それにしてもメル先輩、私たちも案外やれますね……!!どうです、次の作品は趣向を変えて王道のバトルものなんていかがですか?

いいねぇ、それ……インスピレーション爆湧きだよ‼この経験を創作に生かすためにも必ず生きて帰るよ……!!
~レッドウィンター連邦学園・会長執務室~

それにしてもてこずらせる……‼しかし、なぜ今になって……しかも同じタイミングで。

突発的に起こったデモに触発されたわけではない、明らかに何者かの指示によって計画的に動いている。勝算があるとでもいうのか……。

誰が一体何のために。まったく……どいつもこいつも学園から遠く離れた場所で騒ぎを起こしおって……。

………………。

待てよ……遠く“離れた”だと……?しまった……!!

デモの鎮圧に向かわせた保安局員たちを今すぐに呼び戻せ!!奴らの狙いはこの事務局だ!!

もうじき本隊がこちらにやってくるはずだ。出版部どもの騒ぎは、保安局員たちを本部から引き離すための陽動作戦だ!!

私としたことが抜かったか……こちらの組織体系を把握した上での動き、間違いない、生きていたのだな佐城トモエ……!!

扇動し味方につけた生徒たちを囮に使うとは……あの時とは違うとでも言いたいのか?いいだろう、相手になってやる……!!
~レッドウィンター連邦学園・印刷所~

ご覧ください部長‼保安局が撤退していきますわ‼

(諦めて帰っていったわけではなさそうですねぇ……何か“焦っている”ような様子でしたが……まさか……‼)

メルさん、そちらの状況はどうなっていますか?

(通信)おっ、いい時に電話してきたじゃん、こっちはバッチリだよ‼保安局の奴ら急にしっぽ巻いて逃げてったよ。どう?今度うちと共同制作で映画でも……って聞いてる?

やはり……これはマズイですよぉ……。

(通信)どうされましたか?ヤクモ部長。

(通信)トモエ秘書室長、要件だけお伝えします。学園への突入を予定時刻より早めてください!!どうやら我々の目論見に勘付かれたようです、保安局の撤退を確認しました、おそらく本部へ合流するつもりかと……。

(通信)我々も体勢を立て直し次第、そちらへ合流します。

了解です……やるじゃありませんかチェリノちゃん……!!
~レッドウィンター連邦学園・赤ひげ革命広場~

前進するんだ‼一歩も引くんじゃない‼マリナ委員長たちの道を切り開くのだ……‼

うぅ、分かってはいたけど保安局は強い……やっぱり素人の私たちじゃ相手になんか……。

弱音を吐いてる場合じゃないよノドカ。それに、あちらさんを見てみなよ。

さっきから使ってる武器も出てくる兵器も古いものばかり、他学園への侵攻のために出し惜しみしてるんだ。向こうが油断している今がチャンスだよ。

シグレちゃん冷静……。

とはいえ、このままじゃキツイね。いったんどこかに退いて体勢を立て直そう。
~レッドウィンター連邦学園・工場地帯~

はぁ……はぁ……ここは、工場?

みたいだね、呆れた……こんな時にも兵器作ってるんだ。

でも騒ぎのおかげで警備は少ないみたい、何か利用できそうなものを拝借していこう。

シグレちゃん‼あそこ‼

あれは……。
人を突き動かすものは

そろそろか……。原稿は今朝完成したばかりだ、ろくに練習もできていない……あたしのこの演説で戦況が、学園の未来が決まる……。かつてメガホンを手にしてこれほど緊張したことがあっただろうか……。

いや、怖気づいている場合じゃないな……力を借りるぞシグレ‼うぐっ……ごくっ……。

………………。

みんな聞いてくれ……‼あたしは、レッドウィンター連邦学園工務部部長の安守ミノリだ。

ミノリ部長……⁈失踪したはずじゃ……。

あたしはここでレッドウィンターの一生徒としての意見を表明する。この学園政策は誤っている‼チェリノ会長は、今すぐにこの愚行を止めるべきだ‼

アイツは何を言っているんだ⁈今すぐ奴を止めろ‼

やらせるか‼ミノリ部長の邪魔はさせない……‼

くっ……‼コイツらいったいどこから……。

「すべての生徒には意見を表する権利がある」かつて会長はそう言った。だが、今のこの状況はどうだ?生徒の悲痛な叫びには耳を貸さず、その権利を踏みにじり、戦争と言う破滅への道を真っすぐに突き進んでいる。自由と平等とはなんだ?本当にこれが皆の望んだ学園なのか?

これを見てほしい‼チェリノ会長の豹変とその愚行は全て、薬物によって肥大化した会長の虚栄心と愛国心が暴走してしまった結果に過ぎないんだ‼この政策は、決して会長の本意ではない‼

皆も気付いているだろう。我々が知る幼稚で横暴で怠惰で、そして「偉大な」チェリノ会長ならこんなことはしない筈だと。

だがそれももう終わりだ。我々は、シャーレの先生とトモエ秘書室長の指揮のもと、レッドウィンター史上最大の作戦を開始する‼

この悪夢を終わらせ、我々の会長を取り戻すための解毒薬が今、シャーレの先生の手にある。皆でその道を切り開いて欲しい‼一人でも多くの力が必要だ、どうかあたしたちに手を貸してほしい‼

でも……会長が元に戻ったらレッドウィンターは弱小学園のまま……。そう遠くない未来に私たちはあの超兵器によって……だったら……。

それもチェリノ会長の印象操作だ‼皆の見た超兵器の多くはすでに放棄、破壊されている。他ならぬ生徒の意思によって‼誰も武力による支配など望んでいない‼

目を覚ますんだ‼「障害となる学園を全て打ち倒せばそれで平和が訪れる?」それは違う。今度はあたしたちが狙われる立ち場になる。

終わりのない戦いと悲劇の連鎖の渦にこの学園は巻き込まれようとしている‼

だが今ならそれを止められる……‼その力を、あたしたちは、皆は持っているんだ……‼

今日はレッドウィンターの創設記念日、これは偶然か?いや、必然に違いない。

あたしたちは試されている。皆が一丸となってこの未曾有の危機を乗り越え、今日と言う記念すべき日に再び自由と平等の精神を示せるかを‼争い合わなくともこの学園をより良くする方法は必ずあるはずだ‼

同志たちよ、今こそ立ち上がる時だ‼そして、勝ち取ろう「あたしたちの権利」を‼つかみ取ろう「学園の未来」を‼そして守り抜こう「キヴォトスの平和」を‼

今日という日が、あたしたち生徒が確固たる意志を示した日として永久に語り伝えられる、そんな最高の創設記念日にしよう!!!!
うおおおおおおお!!!!!!!!

そうだー‼戦争なんて真っ平御免だ‼

私たちは会長の駒じゃない‼私たちも学園のために戦うぞ‼

やりましたね、ミノリさん……‼

凄い数だ……。演説で向こうの士気も低下している。これなら……‼
~レッドウィンター連邦学園・会長執務室~

そうまでして私の邪魔をするか‼ぐぅっっ……この愚民どもが……!!!!

戦車隊を呼び出せ‼それもありったけだ‼奴らを全員血祭りにあげなければ気が収まらん……‼

目にものを見せてやる……力の差を思い知るがいい‼

よっしゃー‼このままガンガン行こう……ってあれ?向こうに見えるのってまさか……。

戦車隊……そんな、ここまで来て……。

………………‼
ドカーン!!!!
“ゴホッ……目の前の戦車があっという間に……。”
“いったい何が……。”

先生!!正面の戦車隊は私たちに任せて先に行ってください!!

ノドカさん……!!
“あの戦車どこかでみたような……。”
“粛清君1号⁈”

まさか私たちがこれに乗ってチェリノ会長を打倒する日が訪れるなんて、なんというか……。

シグレちゃん、呑気なこと言ってないで早く次弾装填してください!!次の戦車隊が来てしまいます‼

はいはい、言われなくとも……‼

えっへーんだ‼こっちは、あの見栄っ張りな会長が威信をかけて製造させたワンオフモデルなんだから‼そこら辺の旧式モデルになんか負けるもんですか‼

そういうことだから、グッドラック、先生‼

お前たち……行こう先生……‼
~レッドウィンター連邦学園・会長執務室~

久しぶりだなカムラッド。だが、嬉しくない再会だ。
“それはお互い様だよチェリノ”
“お願いだから、今すぐこんな無茶な政策を止めてほしい”

いくらカムラッドの頼みとはいえ、それは聞けないな。それに、“止めてほしい”だと……?カムラッドも酷なことを言うじゃないか。

止まるべきなのは我々ではなく、奴らの方ではないのか?

あんな武力を有し、日に日にその勢力を拡大していく中で、何が学園間の協調だ、何がキヴォトスの平和のためだ、笑わせるな!!

その気になればいつでも力でねじ伏せられるという傲慢さが生む巧言に私は騙されんぞ。

私には、生徒会長としてこの学園を導く“使命”があるのだ‼邪魔をしてくれるなカムラッドよ。

(なんだ⁈聞いているだけで頭が……まずい、トモエ秘書室長も会長の話に聞き入ってしまっている……このままでは‼)
ダダダダダダッッッ!!!!

何だと……⁈

マリナ委員長⁈

目を覚ましてくださいトモエ室長‼我々の目的をお忘れですか⁈我々はチェリノ会長のご高説を聞きに来たのではありません!!

これが会長の狙いです‼こうして時間を稼いでいる間に親衛隊の到着を待っているのですよ!!

………………‼

らしくないではありませんか、あなたがこんなアジテーションに惑わされるなんて。

「レッドウィンター連邦学園では、流れ続けるこの時間もまた財産の一つ」そうでしたよね、トモエ秘書室長‼

チッ……突撃しか能のない奴だと思っていたが、やるじゃないか。伊達に保安局委員長を勤めていた訳ではないようだな!!

いいだろう……私自らが相手になってやる‼貴様ら三人を相手にするなど造作もないわ‼

敵として直接相見えるのは初めてだなカムラッド。見せてもらおうか本当の「大人の力」というものを。さぁ……行くぞ!!!!

これが最後の戦いです……行きましょう‼先生!!
帰ってきた優しい(?)生徒会長

まだ……まだだ……!!ま……まだ……。

レッドウィンターの栄光は……すぐ……そこまで……。

馬鹿な……まだ立てるというのか、奴は“不死身”なのか……。

今です!!先生、マリナ委員長、チェリノちゃんの体を……‼

は、離せ……!!何をするつもりだ!!……おい、その手に持っている物は何だ⁈

待ってくれ……や、止めるんだ……!!私は……おいらは……。

注射が苦手なんだー!!!!!!

お願い……チェリノちゃん、どうか元に戻ってください……!!
“チェリノの身体が……。”
“みるみる小さく……。”

成功……したのか……?

…………うっ、何だか頭がくらくらする。って、おい‼どうしておいらは、お前たちの下敷きになっているのだ⁉重くてかなわん‼早くそこをどけ‼

それにこの服はなんだ、ぶかぶかじゃないか……。そうか、分かったぞ‼おいらが昼寝している間にイタズラでもしようとしたんだろう?

いい度胸だ‼先生もまとめて全員「粛清」してやる‼

(ビクッ……‼)

聞いて驚くな、今回の罰は……

トイレ掃除一ヶ月だ‼どうだ?恐ろしくて声も出ないだろう‼

………………。

か……会長!!!!やります、やらせていただきます‼この池倉マリナ、一ヶ月でも一年でもトイレを磨き続けますとも……‼

ようやく戻ったのですねチェリノちゃん……。

どうしてコイツらは、粛清されたというのに嬉しそうなんだ⁉気でも狂ったか……。
“ふぅ……これで一件落着かな。”
“でも、何かを忘れているような……。”

はっ……‼こうして喜んでいる場合ではありません。外で戦っている皆さんにこのことを伝えなくては‼
~レッドウィンター連邦学園・赤ひげ革命広場~

これで弾切れか……今度こそお手上げかな。

うぅ……最後に水で薄めていない本物のプリンが食べたかったです……。

くっ……殺すなら殺せ……‼

洒落になってませんよ先輩……。
全ての生徒たちに告ぐ!!!!

この声は……。

(放送)おいらはレッドウィンター連邦学園の生徒会長、連河チェリノだ。同志諸君よ良く聞け。今すぐに全ての戦闘行為を中止し、武装を解除、負傷者の救護に全力で当たるのだ‼

(放送)そして、ただ今をもって全ての政策を見直し、軍備拡張に伴うあらゆる制限を解除することをここに宣言する。

(放送)……すまない、ようやく目が覚めた。今日は祝うべき記念日だ、戦いはもう終わりにしようではないか同志たちよ。

………………。

こ……これでいいのかトモエ秘書室長⁉頼むからその銃を下ろしてくれないか……。

はい‼良く出来ましたチェリノ会長♪

今の聞きましたか部長‼

どうやら上手くいったようですね……。

か……勝った、私たちは……勝ったんだ‼

良かった……もう、戦わなくて済むんだな……。

ありがとう先生……。長かった吹雪がもうじき止む、本当の創設記念日がこれから始まるのだな……。
それから、レッドウィンターでは創設記念日と事件の収束を祝した祭りが三日三晩続いた。後にこの戦いを題材にした映画や書籍が数多く出回ったが、腹を立てたチェリノによって回収騒ぎになったのは、また別のお話。
~レッドウィンター連邦学園・会長執務室~

はぁ……まったく、アイツら創設記念祭では「私たちの生徒会長が帰ってきた」だの「私も粛清してほしい」だの散々おいらのことをおだてておいて、一週間も経てば元通りではないか……。

おいらも勢いに流されて調子に乗っていたが、大勢の負傷者や、急に増えた兵器については結局誰も教えてくれないし……。

なんて不愉快なんだ……もういい‼仕事はやめにして気晴らしにテレビでも見るか。

(放送)今回、我々疑似科学部が自信をもってお勧めするのはこちらの商品―

ほうほう……これは興味深いな。これさえあればおいらも……。

今度こそ「おいらの権威を示す時が来たな‼」
動乱の創設記念日~雪原に君臨せし暴軍~ 完

……はい、私です。ええ……例の薬物の臨床実験は上手くいったようです。

複数のサンプルをもとに、この薬物を欲する生徒の性質を把握し、経過を観察するのが本来の予定でしたが、まさかレッドウィンターに流れ着くとは……。おかげで研究がずいぶんと進展しました。“面白い効果”も確認できたことですし……。

疑似科学部の者たちはこちらで匿っています。最後まで自分たちが運び屋であることに気づかなかったようです。利用しがいのある連中です。

……ええ。しかし、薬物の効果には不確実な部分も多く、量産化には課題が多く残ります。やはり“あの女”の協力が必要かと……。

……はい。引き続き計画を進めます。次の対象となる学園にはすでに配下の者を向かわせています。……ええ、この力があれば、いずれキヴォトスは貴方の手に……。

「教授」
あとがき
拙い物語でしたが最後まで読んでいただきありがとうございました。
物語の構想自体は自警団SSを上げた時からあったのですが、温めているうちに夏が過ぎ冬になってしまっていた……。
前回のSSが、汚名を着せられながら孤軍奮闘する自警団、一言で悪と決めつけづらいヴィランなど、ほんのり陰のある物語だったので、次はそれと対になるように分かり易い巨悪に学園全体で立ち向かう王道ストーリーが書きたいと思ったのがこの物語を書いたきっかけでした。
前回の反省点だった「先生の影が薄すぎる問題」も意識しながらなんとか形にできて良かったと思います。
コメント欄やSNSなどで感想をもらえるとすごく励みになります。ぜひあなたの「レッドウィンター愛」をお聞かせください。

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