作品紹介(キューン)

【作品紹介】第11回「黄昏星のスイとネリ」(著者:徳永パン)

作品概要

❝地球の人口を前年より3%減らす見込みです❞
(引用/徳永パン.『黄昏星のスイとネリ』第1巻.KADOKAWA.2021年.6頁)

『黄昏星のスイとネリ』は、著者である徳永パン氏による漫画作品です(全2巻)

『コミックキューン』(KADOKAWA)にて2020年7月号から2021年11月号にかけて連載されていました。

本作品は、汚染やインフラの劣化、宇宙船の発明により過疎化した地球を舞台に、元気印の少女スイとしゃべれるナマケモノのネリが織りなす島での温かな日常を描いた作品です。

氏によって描かれた温かみのある絵に、喋る事の出来る動物との共存という物語の設定が噛みあい非常に心癒される作風となっています。また、随所で喋る動物たちの人間社会での立ち位置や、地球が過疎化していくに至った背景などを仄めかす会話も盛り込まれており、深みのある世界観が展開されています。

ここでは、本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。



あらすじ

過疎化した地球に暮らす元気印の少女としゃべれるナマケモノが贈るハートフル絆ストーリー!

引用:https://comiccune.jp/series/suitoneri//2023年8月26日



主な登場人物

スイ
❝ネリはナマケモノなのに働き者だねー❞
(引用/徳永パン.『黄昏星のスイとネリ』第1巻.KADOKAWA.2021年.5頁)

本作品の主人公。人間の少女で後に紹介するナマケモノのネリと二人で宿泊施設「くつろぎの宿」を切り盛りしています。

まだ幼く、好奇心旺盛かと思えば面倒くさがりな一面もあったりと、年相応の印象を受ける少女です。

作中の地球は汚染やインフラの劣化によって過疎化しており、宇宙に移住する権利を持つ人間は機会があれば宇宙へと向かうという世界観であるため、宿を利用する客は少なく金銭面で苦労している模様。宿の経営だではなく、釣った魚を市場で販売するなどして金銭を工面することもあります。

純粋無垢で、彼女のネリを始めとした動物たちとの関わり合いは眺めているだけでも心癒されます。

ネリ
❝スイは人間なのにナマケモノみたいだよな❞
(引用/徳永パン.『黄昏星のスイとネリ』第1巻.KADOKAWA.2021年.5頁)

本作品のもう一人の主人公のナマケモノ。寸胴体系でスイの両手で抱きかかえられるほどの背丈です。

種族はナマケモノですが働き者で、スイの兄のような立ち位置です。ほかの動物たちと同様に人間の言語を操り人間の生活様式に適応していますが、木登りが得意であったりと元の種族の特性も残っているようです。

年はスイより少し上ですが、スイと一緒にサバイバルゲームに参加したりするなど、しっかり者といってもまだまだ遊び盛りの子どものようです。

シダ
❝最初の宿だったら どうせひとりだったんだよね なんか 楽しかったかも❞
(引用/徳永パン.『黄昏星のスイとネリ』第1巻.KADOKAWA.2021年.78頁)

丸渕眼鏡が特徴の人間の女性。当初予約していた宿の予約ミスで、スイとネリの経営する「くつろぎの宿」急遽宿泊することになります。

宇宙開発に関わるために工学を勉強しており、宇宙にある大学院へ向かうために宇宙船の港のあるテツナギ島に訪れますが宇宙船の乗り継ぎの調整が上手くいかず長期的にくつろぎの宿に宿泊することになります。

お淑やかで気の利く女性で、スイの姉のような立ち位置です。反面、料理は苦手といった一面もあります。

そんな彼女ですが、宇宙へ向かうものの具体的な進路は決まっておらず、地球に一人残る祖母のことを心配するなどの悩みを抱えています。



こんな方にオススメ

人間と動物の温かい交流に心癒されたい方
ノスタルジックな雰囲気漂う物語の世界観に浸りたい方

【キーワード】「日常」「動物」「癒し」「ノスタルジック」

本作品は、作品概要でも記述したように人間と喋る動物たちが織りなす心温まる物語が特徴です。説明的な要素やギャグは少なく、当然のように共存する人間と動物たちのやり取りはただ眺めているだけでも自然と癒され、物語を読み進めていくのに余計な力を必要としません。

また、舞台である地球は汚染やインフラの劣化によって過疎化しており、主人公たちの暮らす「テツナギ島」の居住区も老朽化が進行しています。しかし、氏による温かみのある絵によって悲壮感というよりどこか哀愁を感じられる塩梅になっており独特の世界観を形成しています。

起伏の少ない物語は読みごたえがないかと言われればそうではなく、「人間しか搭乗することのできない宇宙船」「過去に起きた研究施設での事故」など作中では多くは語られないが故に考察の余地があり深みのある世界観になっています。

全2巻と揃えやすく、気軽に読み進められるため是非読んでいただきたい作品です。



感想(ネタバレ含む)

島の住民たちのの織り成す温かな日常とヒューマンドラマ

本作品の魅力はこれまでも再三触れてきたように、島の住民たちの織り成す温かな日常にあると感じます。なんということのない日々の暮らしぶりでも少女と喋る動物たちという組み合わせによって自然と心癒される空間が作りあげられており日常系作品として作中の世界観が上手く反映されていると感じました。

また、作中ではシダを始めとしたテツナギ島から宇宙へと旅立つ人々との交流も描かれており、限られた滞在時間の中で各々の目的を果たし故郷である地球を離れていく過程では、島の住民たちの人情味と寂れていく地球への哀愁を感じられる印象的なエピソードになっています。

奥行きがあり考察のしがいのある世界観

本作品では、「研究施設から来た喋る動物たちの先祖」や過去に起きた研究施設での大規模な事故」など動物たちが喋るようになった経緯や地球が過疎化するに至った原因を仄めかすようなセリフが随所に用意されています。

上記にまつわる台詞が出た直後にスイたちが訪れる「原爆ドーム」をモチーフにしたと思われる建物と「汚染やインフラの劣化」といった地球の背景との因果関係、物語の終盤で慰霊碑でスイの前に姿を現した白衣の女性と猿のような動物の存在などから、動物たちが喋るようになったのは自然に起こったことではなく実験によるものであるほか、その実験施設の事故によって地球の汚染が進んでいったことが推測できるような構成となっております。

また上記に加えて、「宇宙船には動物は乗れない」といった人間と動物の権利の格差を仄めかす台詞など、島の住民たちの温かな日常風景によって上手く隠されてはいますが単なるハートフルストーリという言葉だけでは片付けられない要素もあります。これらの要素は作中では深くは触れられないがゆえに読者に考察の余地を与え独自の世界観を築き上げています。



お気に入りの場面・台詞

1巻32頁

市場にて自分たちで釣った魚を販売するスイとネリの場面。スイが魚が完売した後に空になったバケツにネリを入れて持ち運ぶ構図はとても愛らしく、二人の仲の良さを感じられるお気に入りの場面です。

2巻の表紙について

単行本第2巻の表紙の宇宙へと旅立つシダとスイたちの移った写真の様な構図ですが、島で何か「残せるもの」がないかと悩んでいたシダにとって写真という形で島での思い出を残せたと察することができるさりげない描写ですが秀逸な演出であると感じました。



小ネタ・余談

YouTubeチャンネル・FANBOX

著者である、徳永パン氏は『YouTube』や『PIXIV FANBOX』にて本作品のメイキングを投稿しています。本作品に触れて氏のファンになったという方は是非覗いてみてはいかがでしょうか。



無料で読める公式サイト



最後に

今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。

私は、本作品の独特の世界観が非常に気に入っていたので、ここで紹介できたことをうれしく思うと同時に執筆していてやはりその連載期間の短さを憂う気持ちがこみ上げてきました。これまで紹介してきた作品もそうですが、気に入った作品に限って短命であることが多いのが悲しいところです。

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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