作品概要
❝今日から社会人生活の始まりです 勤務先はエロゲー会社だけど…❞
(引用/ぷらぱ.『R18!』第1巻.芳文社.2009年.9頁)
『R18!』は、著者であるぷらぱ氏による4コマ漫画作品です。(全6巻)
『まんがタイムきららMAX』(芳文社)にて、2007年11月号から2014年2月号にかけて連載されていました。
本作品は、性知識に疎い主人公、鈴村里佳子(すずむら りかこ)が「エロゲー」会社を舞台に個性豊かな社員たちと作品作りに勤しむ日常を描いた作品です。
全年齢対象の本誌において成人向け美少女ゲーム制作を題材にした挑戦的な作品であり、著者が本作品の連載当初、現役のグラフィッカーであったことを生かした業界やジャンル特有の用語、概念の解説といった際どいネタが特徴です。
ここでは、そんな本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。
あらすじ
Hな事が苦手な里佳子。そんな彼女が姉の会社に入る事に。でも、実はその会社はHなゲームを作ってる会社で…? 同僚は姉御肌、童顔で巨乳、メガネ、コスプレイヤー…そんな女の子だらけの職場での里佳子の成長とは? そして全体からただようこの色気は…まさにR18!
引用:http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=263/2024年1月14日閲覧
主な登場人物
□鈴村 里佳子(すずむら りかこ)
❝あたしこんな人たちと一緒にうまくやっていけるのかな……❞
(引用/ぷらぱ.『R18!』第1巻.芳文社.2009年.12頁)
本作品の主人公。姉の鈴村理恵(すずむら りえ)に勧誘され半ば成り行きで彼女の勤務先の面接を受けることになるものの、面接前日になって「エロゲー」会社であることを知らされ動揺したのもつかの間、「理恵の妹だから」と面接なしで即採用されるところから物語は始まります。
成り行きとはいえ成人向け美少女ゲームの製作に携わる身でありながら性知識などに対して耐性が無く、同僚による用語や概念の解説に頬を赤らめることもしばしば。
エロゲー会社に勤務していることに羞恥心を感じている一方でエロゲーを嗜む人間を軽蔑することはなく、入社したからには一人前のクリエイターになることを決心する熱意と思い切りの良さを持ち合わせます。
性知識だけではなくアダルト業界や所謂「オタク知識」にも疎く、彼女の素朴な疑問をきっかけに同僚たちによる解説が始まるというのが各話の基本的な流れになっています。
そんな彼女ですが、自身が貧乳であることに加えて幼少期から巨乳である姉と添い寝することが多かったためか、女性の乳房に対して異常なまでの羨望と執着心を持っており、一目見ただけで胸囲を言い当てるほか、初対面の人間の胸を衝動的に揉んでしまうなどの奇行が目立ちます。
入社当初はグラフィッカーとしては素人同然だった彼女ですが、この胸への執着の表れか乳房周りの塗りに関しては同僚からも認められるほどの腕前を見せます。
□井上 桜(いのうえ さくら)
❝だっておかずは多いほうがいいんじゃんか❞
(引用/ぷらぱ.『R18!』第1巻.芳文社.2009年.13頁)
里佳子の先輩グラフィッカー。背丈は低く童顔ですが99センチという驚異の胸囲を誇り、里佳子から事あるごとに胸を揉まれます。
お淑やかな性格ですが、アダルト業界に長く身を置くだけあって性知識や業界についても詳しく、恥じらいを見せる里佳子とは違い平然と解説を行うほか、下ネタで彼女をからかう余裕も見せます。
オタク趣味にも精通しており、同僚たちとオタク談議に花を咲かせる姿も見られ、特に「メガネ娘」への拘りが強い模様。プライベートでは同人活動も行っており、即売会では百合を題材にした同人誌を頒布していました。
デスクワークのため運動不足による体重増加を気にする女性らしい一面も。左薬指に指輪をはめていますが作中で言及されることはありませんでした。
□真堂 佳織(しんどう かおり)
❝わからないことがあったら気兼ねなく何でも聞いてね桜に❞
(引用/ぷらぱ.『R18!』第1巻.芳文社.2009年.11頁)
グラフィックチーフ。姉木肌でものぐさな言動が目立つものの、経験豊富でグラフィッカーとしての力量は確かであり、桜と並んで里佳子の成長に一役買っている人物。
業界入りして長く同業界間での転職も経験しているためか、前職や業界に対する愚痴が多く、クオリティよりも納期を優先する姿勢も相まってある種模範的な会社員という印象を受けます。言動からそこはかとない社会人の悲哀を感じますが、仕事自体は好きでやっているようで彼女なりに信念を持って仕事に臨んでいる様子。
他の同僚の例に漏れずオタク趣味には明るく、特にスクール水着に拘りがあるようで「プリンセスライン」というペンネームを名乗っているほど。自身もエロゲーを嗜むだけあって性知識が豊富で作中では桜と並んで解説や助言役を務めます。
学生時代から同姓に好かれるようで、作中では同僚の斎藤ゆうこ(さいとう ゆうこ)との交際を仄めかす描写も見られます。
こんな方にオススメ
□成人向け美少女ゲームをプレイした経験のある方
□趣味・仕事などで絵を描いた経験のある方
【キーワード】「社会人」「仕事」「エロゲー」「下ネタ」「微百合」
本作品は、エロゲー会社に勤務する主人公たちの日常を描く所謂「お仕事系」作品になりますが、特徴としてエロゲー絡みの下ネタやグラフィック関係の解説が多いことが挙げられます。
2000年代初頭のゲーム雑誌や公式Webサイト風の登場人物紹介を始め、直接的な描写はないものの台詞やコマから推測できる知識、概念など各所に散りばめられた「分かる人にはわかる」ネタが魅力です。主人公たちの勤務先の会社規模的にミドルプライスのエロゲーのプレイ経験があると話が呑み込みやすいのではないかと感じました。
とは言ったものの、当記事の筆者のエロゲー歴は世代的に2000年代初頭を代表するKey(株式会社ビジュアルアーツ)などの大手ブランドメーカの作品に触れぬまま、ロープライスのタイトルをセール時に買い込んではその大半をプレイせずに放置する程度にもかかわらず、会話の意味も理解でき、上記のパロディやオマージュに懐かしさを感じることができたので、エロゲー未経験の方でもある程度楽しむことができると思います。
また、主人公がグラフィッカーなこともあって作業にまつわるエピソードも多く、趣味や仕事などで絵を描かれる方も共感しやすいのではないかと思います。
全6巻という揃えやすさも含めて是非読んでいただきたい作品です。
感想(ネタバレ含む)
□「NEW GAME!」では描かれなかった業界の影
ゲーム会社が舞台のきらら作品というとTVアニメ化もされた『NEW GAME!』(芳文社/著者:得能正太郎)が有名ですが、仕事への情熱や労働の尊さを感じさせる当作品とは対照的に、本作品では業界の暗部の暴露や愚痴が多くクリエイターないし社会人の悲哀を感じさせます。
まんがタイムきららMAX2016年10月号にて掲載された『かおす先生のアトリエ探訪~きらら漫画の作り方~』にて氏が語った当作品で意図的にオミットされた要素を本作品はふんだんに盛り込んでおり、正に業界の光と影といった所です。
王道RPGと成人向け美少女ゲーム、高いスキルと志を持って入社した涼風青葉(すずかぜ あおば)と半ば成り行きで入社した里佳子といった対比も印象的です。
どちらが良いという話ではなく、どんな仕事にも正負の側面があり、その中でもきららでは扱われにくい負の側面を、不快に感じない絶妙な塩梅で描いた本作品の存在は大きな意義があったのではないかと思います。
同じ題材を扱いながらも正反対のアプローチをした両作品、この機会に読み比べてみるのも一興かもしれません。
□至る場所に散りばめられた「遊び心」
本作品の特徴は何といっても作中の背景のみならず裏表紙に至るまで、様々な個所に散りばめられたアナグラムやパロディといった「小ネタ」の数々だと感じます。
きらら作品間でのゲスト参加やパロディ自体は珍しくはなく、近年では2022年にTVアニメ化した『ぼっち・ざ・ろっく!』(まんがタイムきららMAX/著者:はまじあき)の作中にて『スローループ』(まんがタイムきららフォワード/著者:うちのまいこ)のキャラクターが登場し話題を呼びました。しかし、本作品のそういった小ネタの数は他作品と比較しても圧倒的に多いと言え、物語だけでなくこういった小ネタ探しも魅力へと昇華されています。こちらは下記の「小ネタ・余談」にて個別で紹介したいと思います。
小ネタ自体は注意深く探せば見つかる程度で、物語を読むうえで邪魔になることはありません。建物の風景などキャラクター以外の描写にも注力している作品は数多く存在しますが、こういったアプローチでコマの背景に注目させるのも面白いと感じました。
ゲームパッケージや公式Webサイト風の裏表紙や本扉に始まり、SDキャラでの登場人物紹介といった「エロゲーあるある」など本編以外の部分も非常によく作り込まれており、著者の遊び心を感じます。真の意味で「最初から最後まで楽しめる」作品だと言えるでしょう。
印象的な場面・台詞
❝CG職人としてのプライドと会社員としての自分の心が揺れ動くわけですよ❞
(引用/ぷらぱ.『R18!』第5巻.芳文社.2013年.69頁)
性行為中のCGを担当する里佳子が背景にある窓の外の風景をどうすればよいかと佳織に質問する場面。
本作品の結論は「大半のプレイヤーは見ていないから適当でよい」とのことでしたが、感想の項目で話題に挙げた「NEW GAME!」でも類似した話が存在します。重要度の低いNPCまで作り込む必要はあるのかという青葉の問いに対し、見る人は見るからと妥協は許さない姿勢の八神コウ(やがみ こう)。幾度に渡るリテイク、時間外労働の末に完成にこぎつける感動的なエピソードです。
佳織も上記の台詞にある通りグラフィッカーとして出来る限り良いものを描きたいとしつつも、そのためにサービス残業するのは不本意だと語っております。納得のいくクオリティになるまで社内泊することもいとわないコウとは対照的ですが、彼女の主張も至極真っ当なものであり、限られた時間の中で妥協する覚悟も必要という仕事の難しさを描き、当作品との方向性の違いを決定づける印象的なエピソードだと感じました。
個人的には佳織の様な上司の方が働きやすそうだな~なんて思いました。
小ネタ・余談
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら コミックマーケット76企画本 CROSS×OVER
本作品は2009年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット76にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット76企画本 CROSS×OVER」に『まん研』(芳文社/著者:うおなてれぴん)とのコラボ漫画が掲載されました。作中では当作品の登場人物たちとの巨乳対決が披露されました。
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら コミックマーケット76企画本 OVER×CROSS
本作品は2009年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット76にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット76企画本 OVER×CROSS」に『まん研』(芳文社/著者:うおなてれぴん)とのコラボ漫画が掲載されています。物語は喫茶店に原稿作業をしにやって来た第2まん研部員たちが、偶然同じ店内で性癖談議に花を咲かせていた佳織たちに出会うという内容でした。
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら コミックマーケット78企画本 I
本作品は2010年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット78にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット78企画本 I」に掲載されました。IFストーリーがテーマで、内容は「もしも里佳子がオトコだったら…」というものでした。
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら コミックマーケット80企画本 ワーカーズ!
本作品は2011年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット80にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット80企画本 ワーカーズ!」に掲載されました。
こちらは未所持の為、入手次第内容を更新します。
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきらら コミックマーケット84企画本 私たちの学校へようこそ!
本作品は2013年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催されたコミックマーケット84にて頒布された「まんがタイムきらら コミックマーケット84企画本」に掲載されました。
きらら作品の登場人物が一堂に会するきらら学園が舞台となっており、里佳子たちが学園内で『ゆゆ式』(芳文社/著者:三上小又)、『きんいろモザイク』(芳文社/著者:原悠衣)、『彼氏ってどこに行ったら買えますの!?』(芳文社/著者:火曜)、『Aチャンネル』(芳文社/著者:黒田bb)の登場人物たちと出会うという豪華な内容でした。
※2024年9月1日追記
□まんがタイムきららMAX200号記念特別付録冊子
2021年6月号にて通巻200号を迎えたまんがタイムきららMAX、当誌に付属した特別付録冊子に本作品も掲載されました。桜と氏の作品である『アイドル声優☆上村とまり17歳』(まんがタイムきららMAX)の上村とまりが水着姿を披露してくれました。
□『かなめも』との関係
感想の項目にて、コマの背景や表紙に隠されたアナグラムやパロディといった「小ネタ」が魅力だと述べましたが、その中でも特筆すべきは『かなめも』(芳文社/著者:石見翔子)関連の小ネタの多さです。ここで全てを紹介することは出来ませんが、個人ブログでまとめている方がいらっしゃいますので、興味があればそちらも訪問されてみてはいかがでしょうか。
・1巻115頁
実在する同人ショップ「とらのあな」を模したと思われる「ねこのす」にて同僚に頼まれた私物を購入する里佳子。レジで作業する男性店員の後ろに「かなめも特典ポ」の文字が確認できます。
・1巻表紙
背景の本棚に「百合ゲー かなめも」の文字が確認できます。
・2巻62頁
背景の本棚に「石美祥子」を著者とする書籍がありますが、おそらく「かなめも」の著者である石見翔子氏のアナグラムだと思われます。
・2巻66頁
慰安旅行先の温泉にて「かなめも」の登場人物である中町かな(なかまち かな)と久地院美華(くじいん みか)が登場します。直後に登場した女性二人も、単行本ではモノクロであるため分かりづらいですが、本誌でのカラー掲載時の髪色から西田はるか(にしだ はるか)と東ひなた(あずま ひなた)であると思われます。
これまで文字での登場のみでしたが、このエピソードにてついに本人の登場となりました。また、当作品の第3巻46頁にて里佳子と佳織が登場しており、希しくも同じ「風呂」にまつわるエピソードでの登場となりました。
・2巻87頁
後藤裕美(ごとう ゆみ)が持つ携帯電話にはるかと思われる眼鏡をかけた女性のストラップが付いています。
・2巻107頁
コミックマーケットにてゆうこが美少女が描かれたシーツについて熱弁をする場面。彼女のイメージ像にかなと美華と思われる少女が登場します。顔までは描かれていませんが、髪型と特徴的な口調から美華であると思われます。
・3巻4頁
背景の本棚に「かなめも」と書かれた書籍が確認できます。以降、同様の書籍が社内で度々確認できます。4頁の「かなめもーにんぐ」は当作品のインターネットラジオ『早寝早起き!かなめもらじお』、40頁の「かなめものなく頃に」は『ひぐらしのなく頃に』(07th Expansion)のパロディでもあります。これ以外にも本作品にはゲームやラジオ、声優関連の小ネタも数多く存在します。
・3巻108頁
仕事帰りに満員電車に乗り込む里佳子たちですが、その背後に特徴的なツインテールをした天野咲妃(あまの さき)と思われる少女が確認できます。
・4巻26頁
「KANAMEMO」の文字と咲妃と思われる少女が描かれた痛車が登場します。また、直前のコマには『Aチャンネル』(まんがタイムきららキャラット/著者:黒田bb)の痛車も登場します。
・4巻114頁
年の瀬に神社に参拝に来た里佳子たち、奉納された絵馬の中にかなと美華の痛絵馬が確認できます。
・5巻98頁
自社ゲームのマスターアップ祝いでスキー旅行に来た里佳子たち、桜と容姿が似た女性に里佳子が話しかけてしまう場面。後方にスキーウェアを着たかなと美華と思われる少女が確認できます。
・5巻105頁
スキー場に併設された温水プールを楽しむ里佳子たち、ゆうこの後方にかなと美華が確認できます。また、このエピソードには同誌で連載していた『きんいろモザイク』(著者:原悠衣)の面々も登場しています。
・6巻11頁
背景にかなと美華が描かれたポスターが張られています。以降、同様のポスターが社内で度々確認できます。
・6巻表紙
背景の本棚に「かなめろ♪」の文字が確認できます。
比較的わかりやすいものだけピックアップしましたが、上記以外にもそれらしき小ネタ満載なので、是非探してみてください!
無料で読める公式サイト
※2024年2月27日現在、試し読みのみ
最後に
今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。
作品の名前が名前だけにネット上での感想や小ネタ関連の検索には少々苦労しました。
また、前回の投稿から日が空いてしまい申し訳ありませんでした。これまでやれ休職だ転職だと腑抜けたことを抜かしていましたが、思い悩んだ末にやはり復職することにしました。今後は投稿の頻度もさらに落ちるかと思われますが、また気が向いたときにでも覗いていただけると幸いです。
長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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