作品紹介(きらら)

【作品紹介】第7回「星屑テレパス」(著者:大熊らすこ)

作品概要

❝高校の入学式 昨日の出会いはあまりに衝撃的で…私の心を光線銃で打ち抜いた
(引用/大熊らすこ.『星屑テレパス』第1巻.芳文社.2020年.18頁)

『星屑テレパス』は、著者である大熊らすこ氏による4コマ漫画作品です。(既刊3巻/2023年8月9日現在)

『まんがタイムきらら』(芳文社)にて、2019年6月号・7月号でのゲスト掲載の後、2023年8月9日現在まで連載中です。

本作品は、周囲に馴染めず自身の居場所を宇宙に求める主人公、小ノ星海果(このほし うみか)と、そんな彼女の前に突然現れた自ら宇宙人と名乗る少女、明内ユウ(あけうち ゆう)を中心に宇宙へと向かうための足掛かりとしてモデルロケットを作成していく過程で、ときには互いにすれ違いながらも成長していく少女たちの様子を描いた作品です。

氏によって背景などの細部まで書き込まれた煌びやかな絵と、登場人物たちの繊細な心情を描いた高いストーリー性が特徴で、2022年にはTVアニメ化されることが発表されるなど2023年現在、非常に注目度の高い作品です。

ここでは、本作品の魅力を感想・考察を交えつつ紹介していきたいと思います。

※2024年3月18日追記
TVドラマ化決定

2024年3月17日、テレビ東京「ドラマチューズ!」にて、本作品のTVドラマ化が発表されました。出演は国民的アイドル「AKB48」が務め、初回は2024年6月25日(火)24時30分が予定されています。

『がっこうぐらし!』(芳文社/作画:千葉サドル、原作:海法紀光)、『ゆるキャン△』(芳文社/著者:あfろ)に続く実写化であり、TVアニメ放送とは異なる視聴者層の獲得が期待できる良い機会だと思います。

出演メンバーはオーディションで決定するようで今後とも目が離せません。

MacKey
MacKey

突然の発表、誰も予想だにしなかったドラマ化ということで、発表当初はファンの間では喜びの声より驚きの声が多かった気がします。

それでもやはりめでたいですね!漫画作品というとどうしてもアニメのイメージが強いですが、活躍の場が増えるのは良い事だと思います。「ゆるキャン△」も好評だったようですしこの流れが続くといいですね。



あらすじ

内気な少女・海果の悩みは、極度のあがり症でうまく話せないこと。 彼女はいつしか友達作りを諦めてしまっていた。 そんなある日、転校生のユウが現れる。 なんとユウの正体は宇宙人で、「おでこ」同士をくっつけると、相手の気持ちを理解できる「おでこぱしー」の能力を持っており……!? 新進気鋭の作家・大熊らすこが描く、”百合”と”宇宙”のめくるめく青春ストーリー。

引用:http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=1624/2023年8月6日閲覧



主な登場人物

小ノ星 海果(このほし うみか)
❝この星で言葉が通じないのなら言葉が通じる星を探せばいい!
(引用/大熊らすこ.『星屑テレパス』第1巻.芳文社.2020年.10頁)

本作品の主人公。会話が苦手で周囲に上手く馴染めないことから自身の居場所を「地球」ではなく「宇宙」に求めていたとき、転校生である自称宇宙人のユウと出会うことでこの物語は始まります。

地球に訪れる以前の記憶を無くし、宇宙へ帰る方法を探しているユウにロケットを作成し宇宙へ自身の言葉や思いの通じる居場所を探しに行くという自身の夢を語り、「宇宙に行く」という目的の一致からユウと共に行動します。

引っ込み思案な性格で、妄想の世界に入り込むこともしばしば、地球でも人とまともに会話できないにも関わらず宇宙人となら上手く会話できるといった思い込みの強い一面もあります。

また、涙脆く事あるごとに目に涙を浮かべる彼女ですが、自身の夢に懸ける意志は強く、部活動や人間関係などで失敗して涙ぐみながらも決して諦めることのない芯の強さがあり、相手に自身の素直な気持ちを伝えることのできる勇気も持ち合わせています。物語の序盤はそんな彼女の成長する姿が物語の主軸になっています。

単行本第1巻の発売を記念して実施されたインタビューで大熊らすこ氏は、❝一見すると大きな夢を持っているように見えない内気なキャラクターを主人公に据えようと考えていました❞と述べています。
(引用:https://media.comicspace.jp/archives/15777/2023年8月9日閲覧)

明内 ユウ(あけうち ゆう)
❝今のはね「おでこぱしー」!
(引用/大熊らすこ.『星屑テレパス』第1巻.芳文社.2020年.15頁)

宇宙人であることを自称する海果のクラスメイト。宇宙船の故障により地球に不時着したと本人は語りますが、地球に訪れる以前の記憶を無くしており、目を覚ました際に何故か所持していた学生証を利用して海果の通う高校に入学しました。

自身の出自を探るため宇宙へと向かう必要があることから、同じく宇宙を目指す海果の夢に共感しロケット製作にも協力します。

宇宙人を自称するだけあって宇宙語を理解するほか、テレポーテーションや作中で「おでこぱしー」と称される額同士を合わせることで相手の思考を読み解く不思議な能力を有しています。

宇宙という共通の話題があったとはいえ、内気な海果とも即座に打ち解けられる快活な性格の持ち主ですが、前述した「おでこぱしー」を用いずとも相手の心情を察する洞察力があるほか、人として成長する海果を目の当たりにして海果にとって自身が必要ではなくなることを不安視するなど繊細な一面もあります。

インタビューで氏は、初期案では「大人びたキャラクター」であったことに対して担当から❝海果と正反対の性格にしたほうが読者さんの印象にのこりやすい❞とのアドバイスを受けたことで現在の人物像になったと述べています。
(引用:https://media.comicspace.jp/archives/15777/2023年8月9日閲覧)

宝木 遥乃(たからぎ はるの)
❝結果も過程もこの世界にあるものは皆特別ですから
(引用/大熊らすこ.『星屑テレパス』第1巻.芳文社.2021年.66頁)

海果のクラスの副学級委員長。副学級委員長を務めるだけあって社交的で、会話の苦手な海果にも優しく声を掛けるほか、後に紹介する不登校気味の雷門瞬(らいもん またき)に授業のノートを届けに行ったりと面倒見の良い性格です。また、住居がなく祖父が管理していた灯台に勝手に住み込んでいたユウの事情を察して灯台を提供する懐の深い人物でもあります。

ロマンティストな一面があり、海果の夢にも理解を示すほか、気持ちが昂ると詩人家のような口調になる特徴があります。

後にユウに勧誘されて海果達の夢に協力することになりますが、活動にも積極的でモデルロケットの発射テストではメンバー内で唯一失敗をしなかったなど手先の器用さも見せます。

そんな彼女ですが、瞬のバイクに二人乗りで登校するほか、山での宿泊体験学習では彼女と共に教師陣に黙って打ち上げ花火を実施するなど乗りの良い一面もあります。

インタビューで氏は、❝宇宙で一番懐の大きな女の子というイメージで描いています❞と述べています。
(引用:https://media.comicspace.jp/archives/15777/2023年8月9日閲覧)

雷門 瞬(らいもん またたき)
❝助けてくれる優しいお友達が欲しいなら他をあたれよ
(引用/大熊らすこ.『星屑テレパス』第1巻.芳文社.2020年.63頁)

額に付けているゴーグルと刺々しい物言いが特徴的な少女。興味のあることしかしない主義であり、日頃から父親の作業場を借りてロボット製作に打ち込んでいるため学校を休みがちです。

当初は、海果の夢にも関心がなく彼女たちのロケット製作に自身の「技術」が必要とされているだけと思い込み、彼女たちを突き放すような言動を取りますが、後に海果の裏表のない真っ直ぐな想いに感化され彼女たちのロケット製作に協します。

モデルロケットのライセンス3級及び指導講師ライセンスを所持しており、同好会に加入後は海果たちにモデルロケット製作のノウハウを伝授します。

メンバー内では比較的常識人である彼女ですが、そのコミュニケーションの不慣れさ故に、同好会を部へと昇格するための実績作りのため大会の結果に拘るあまり独善的になってしまい、メンバーとの軋轢を生んでしまうこともあるなど、人間としての未熟さが目立つ一面もあります。

インタビューで氏は、彼女の事を❝海果が乗り越えるべき壁として登場させたキャラクター❞とし、海果とは鏡のような関係性とも述べています。
(引用:https://media.comicspace.jp/archives/15777/2023年8月9日閲覧)



こんな方にオススメ

登場人物の心情を中心としたストーリー性の高い展開を求める方
キャラクターや背景などのビジュアル面も重視する方


【キーワード】「日常」「高校生」「宇宙」「百合」

本作品は、作品概要でも記述したようにロケット研究同好会としての活動に登場人物達の苦悩や葛藤、そしてそれらと向き合う覚悟が上手く盛り込まれており、同時に自称宇宙人で記憶喪失のユウの出自の謎も展開される高いストーリー性が魅力です。

氏の繊細なタッチによって細部まで書き込まれ宇宙を連想させる星模様などによって彩られた背景、苦悩や葛藤などの細かな心情の変化を捉えた登場人物たちの豊かな表情からは臨場感が感じられ、ストーリー性だけではなく視覚的にも楽しめる仕上がりになっています。

また、登場人物達の台詞はどこか詞的で、単行本に追加されたサブタイトルと合わせて幻想的な雰囲気を醸し出しているほか、作中に登場する架空の言語である「宇宙語」など、独特の世界観が展開されており作品への没入感が高いのも本作品の魅力だと感じます。2023年の冬期にTVアニメ化が決定しており、既刊も3巻と揃えやすいため、是非読んでいただきたい作品です。



感想(ネタバレ含む)

少女たちの抱える苦悩や葛藤をロケット研究同好会という舞台の中で描いた青春物語

本作品の魅力は4コマ漫画という情報量に制約のある中で繊細に描かれた登場人物たちの心情とそれらを際立たせる舞台設定が魅力であると感じます。

本作には、「コミュニケーションが苦手な故に地球に居場所を見つけられないでいる海果」、「人間として成長していく海果を目の当たりにしてこれまで彼女の補助的な立場でいた自身の必要性を不安視するユウ」、「物事に勝敗が付く事を恐れどんな結果にも価値があると信じ込む遥乃」、「居場所を失う恐怖心から初めから周りを拒絶しようとしていた瞬」

など、多感な時期故に繊細な悩みを抱える登場人物が数多く登場します。作中では、これらの苦悩や葛藤は各個人で自己解決されていくものではなく、互いに密接に重なり合いながら解決へと進行していきます。

過去の経験から他者との関係性の脆さを痛感していた瞬は、同好会内での自身の居場所は海果たちの目標の達成に貢献している事を前提としたものであると思い込んでいたゆえに、モデルロケット選手権予選での敗退に責任感を感じて同好会から距離を置いてしまいます。

そんな彼女の姿を目にしたことで、勝敗を恐れ傍観者として他人の夢を応援しているだけではなく自身だけの目標を持つことで瞬たちと対等の位置に立つことを宣言した遥乃

そして、以前は瞬と同じく自身の居場所を求めていましたが、他者に頼るだけではなく彼女の心の弱さを受け止めたうえで自身もまた彼女の居場所とななれるよう尽力することを誓う海果など、それぞれの持つ悩みは独立しておらず互いに共鳴し合えるものになっています。

そして、二度目のロケット勝負を経て瞬が海果たちの想いを受け止めもう一度同好会のメンバーとして再起することを決心する展開は、以前に彼女が同好会に加入するきっかけとなったペットボトルロケット勝負のエピソードを彷彿とさせ、彼女たちにとって「ロケット勝負」だけではなく「苦悩や葛藤への対面」という意味でも「再戦」であったと受け取れる非常に秀逸な演出だと感じました。

このように、登場人物たちの心情の重なり合いだけではなく、その舞台としてロケット研究同好会の要素が上手く機能しており、部活動要素として確かな必要性感じさせ、往年の部活動を主軸としたきらら作品とは違った趣が感じらます。

こういった趣向の作品は近年増加傾向にあり、令和元年に連載が開始した本作品は『まんがタイムきらら』に新しい風を送り込んだ作品の一つであるといえます。

今後の展開への期待

モデルロケット選手権予選以降の騒動も収束し、ロケット研究同好会として新たな一歩を踏み出した彼女たちですが、今度はユウを中心に新たな展開の予感を感じさせるところで第3巻は幕を閉じます。

第1巻は内気であった海果の成長を、第2巻は前述のモデルロケット選手権予選までの波乱を、そして第3巻は第2巻での騒動の収束とその後の展望を主軸としており、これまで次巻へと進む毎に大きな動きを見せてきた物語ですが、第4巻に収録されるエピソードではこれまであまり触れられることのなかったユウの出自が主軸となり物語の核心へと迫ることが予想され大きな期待が持てます。



お気に入りの場面・台詞

❝海果が親に内緒でお友達とお泊り会なんて…
(引用/大熊らすこ.『星屑テレパス』第3巻.芳文社.2022年.108頁)

数々の経験を経て人間として一回り成長した海果を目の当たりにして、これまで彼女の補助的な立場でいた自身の必要性への不安感から気が付くと彼女の部屋にテレポーテーションしていたユウ。

ユウの能力を知らない海果の母親は、内気な海果が親に内緒で友人を家に泊めたと娘の成長を喜び、気を遣って彼女の妹を連れて家を空けます。

俗にいう「今日、家に親はいないから…」展開になるわけですが保護者側から気を遣って退出する展開は珍しく、海果たちにも読者にも配慮する気の利き過ぎた母親の姿が印象的なエピソードでした。



小ネタ・余談

※2024年5月3日追記
まんがタイムきらら200号記念特別付録小冊

2020年7月号にて通巻200号を迎えたまんがタイムきらら、当誌に付属した特別記念冊子に本作品も掲載されました。宇宙人をイメージさせる衣装に身を包んだ海果たちが200号達成を盛大に祝うイラストが描かれました。

※2024年5月3日追記
まんがタイムきらら独立創刊20周年特別付録小冊子

2023年12月号にて独立創刊20周年を迎えたまんがタイムきらら、当誌に付属した特別付録冊子に本作品も掲載されました。

わらびもちきなこ氏の『しあわせ鳥見んぐ』とのコラボ漫画で、巨大UFOの噂を聞き山形まで訪れた海果とユウがバードウォッチングの最中だったすずと翼に出会うというストーリーでした。

ユウの誕生日

作中では記憶を無くしていることもあってか、誕生日が長らく不明であった彼女ですが、著者である大熊らすこ氏のX(旧名Twitter)にて誕生日が「海の日」であることが非公式に決定しました。

瞬にも指摘されていますが、海の日は7月の第3月曜日であり毎年変わってしまいますが本人は気にしていないようです。

YouTubeチャンネル

著者である大熊らすこ氏はYouTubeにて自身のチャンネルを開設しています。氏自ら『星屑テレパス』のTVアニメ・TVドラマの視聴ライブ、登場人物の名前の由来などの小ネタ解説が配信されており氏のファンは必見です。



無料で読める公式サイト



最後に

今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。

本作品は、2023年冬期にTVアニメ化が決定しており、その時期も目前に迫ってきました。TVアニメが放送される前に紹介することが出来て良かったです。そろそろ『まんがタイムきらら』だけではなく、ほかの出版社の作品も紹介していきたいなと考えていますがどの作品にするか悩ましい所です。

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました

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