作品紹介(きらら)

【作品紹介】第9回「しあわせ鳥見んぐ」(著者:わらびもちきなこ)

作品概要

❝それは 澄み切った空を映したような 輝く”翠”だった
(引用/わらびもちきなこ.『しあわせ鳥見んぐ』第1巻.芳文社.2021年.7頁)

『しあわせ鳥見んぐ』は、著者であるわらびもちきなこ氏による4コマ漫画作品です。(既刊2巻/2023年8月17日現在)

『まんがタイムきらら』(芳文社)にて、2020年7月号・8月号・9月号でのゲスト掲載の後、2023年8月17日現在まで連載中です。

本作品は、芸術大学に通う主人公宮内すず(みやうち すず)が芸術家としてスランプに陥っていた際に偶然出会ったバードウォッチャーである時庭翼(ときにわ つばさ)との出会いをきっかけに、バードウォッチングの世界へと足を踏み入れる事でスランプを抜け出し、芸術家としてもバードウォッチャーとしても成長していく様子を描いた作品です。

氏によって細部まで描かれ特徴を捉えた鳥の作画は見応えがあり、作中の雑学も交えた丁寧な解説と合わさって、4コマ漫画としてだけではなくバードウォッチングの入門書としても楽しめる仕上がりになっています。

ここでは、そんな本作品の魅力を感想なども交えつつ紹介していきたいと思います。



あらすじ

「絵に個性がない」と言われ悩む芸大生の主人公・すずは、
ある日熱心に鳥を観察する少女・翼と出会う。

鳥見(バードウォッチング)について熱く語る翼に影響を受け、
鳥の絵を描き始めたすずは、初心者ながら鳥見を始めてみることに…!

『とり』とめのない日々から切り取る小さな『しあわせ』が沢山詰まった
芸大生×鳥見ガチ勢のバードウォッチング4コマ!

引用:http://www.dokidokivisual.com/comics/book/past.php?cid=1740/2023年8月16日閲覧



主な登場人物

宮内 すず(みやうち すず)
❝私ずっと描きたいものを探してて あの鳥たちを見てたらキャンバスに描きたいって思ったんだ❞
(引用/わらびもちきなこ.『しあわせ鳥見んぐ』第1巻.芳文社.2021年.20頁)

本作品の主人公。みちのく芸術大学に通う大学生であり、大学の講評にて「君の作品には色がない」と評されて以来、描きたいものが見つけられない日々を送っていました。

ある日、絵のモチーフを探しに公園へ出向いていた際に、双眼鏡を使用してスズメを観察する時庭翼(ときにわ つばさ)に出会いました。翼はその際、観察に夢中になるあまり「スズ―かわいいなぁ」と独り言を呟いてしまったために、すずは彼女のことを覗き魔だと勘違いしてその場で取り押さえてしまいます。

彼女から事情を説明された後、バードウォッチングの手解きを受け、その際に見たカワセミの捕食行動を見て大きな衝撃を受けます。その時の衝撃から翼とカワセミをモデルにした絵を描くなど、バードウォッチングに大きな関心を持ち、自身の描きたいものを「鳥」に見出したことで、後に再開した翼と共に行動しながらバードウォッチングの世界に足を踏み入れていくことになります。

物語開始時点で成人しており、飲酒をする描写も多くそのまま酔い潰れてしまうこともしばしば。単行本第1巻の発売を記念して実施されたインタビューでわらびもちきなこ氏は、❝すずは社会人設定だったのですが、他のキャラと予定を合わせやすくするためにみんな大学生になりました❞と述べています。
(引用:https://media.comicspace.jp/archives/18988/2023年8月17日閲覧)

時庭 翼(ときにわ つばさ)
❝立ち止まって耳を澄ませる それだけでいいんですよ❞
(引用/わらびもちきなこ.『しあわせ鳥見んぐ』第1巻.芳文社.2021年.15頁)

長いポニーテールが特徴のバードウォッチングが趣味の女性。バードウォッチングをこよなく愛しており、鳥の解説となると早口になってしまうこともあります。

バードウォッチングの魅力を伝えるため、動画投稿サイトにて自ら鳥の着ぐるみを着用し野鳥観察の解説を行う「トリさんぽch」を投稿していますが視聴率は低い模様。自身が動画投稿していることはごく一部の友人を除いて周囲には隠しています。

観察した鳥は200種近くにも及び鳥に関する知識は豊富で雑学を交えて説明できるほどであり、作中では主な解説役を務めます。時折、トリさんぽchでの解説の癖で語尾が「っぴ」になってしまい、当チャンネルのファンになったすずには早々に正体を見破られてしまいます。

出身は飛島(山形県)であり、中学生時には島内唯一の子どもでした。父親が勤務する診療所が閉鎖され山形市の病院に勤務することになったことを機に、本土の中学校へと転校するか島に残るか悩んだ末に本土の中学校へと転校することを選択しましたが、そのことを大学生となった現在でも後ろめたさを感じているという背景があります。

今泉 ひな(いまいずみ ひな)
❝それにすずちゃんのペースに乗せられる翼、おもしぇしにゃー
(引用/わらびもちきなこ.『しあわせ鳥見んぐ』第1巻.芳文社.2021年.38頁)

翼と同じ大学に通う山形弁が特徴的な女性。県内有数の果樹農園「今泉ファーム」の一人娘であり、有名宝飾メーカーが出している10万円を超える双眼鏡を使用するなど非常に裕福です。

翼とは中学生時代からの使い合いですが、バードウォッチングに本格的に参加するようになったのは翼がすずと知り合ってからです。それまでは翼からのバードウォッチングの誘いを断っていたようで、参加するようになったのは上記の台詞にもあるように、すずのペースに乗せられ饒舌になったりする普段見せない姿の翼が見たいためであるようです。

また、翼が「トリさんぽch」で動画投稿を知っている数少ない人物のうちの一人です。

翼と同じく大学1年生で未成年でありますが、その落ち着いた物腰と包容力からすずには成人女性と勘違いされていました。

荒砥 岬(あらと みさき)
❝だから人にも鳥にもちょうどいい距離があるんだよ❞
(引用/わらびもちきなこ.『しあわせ鳥見んぐ』第1巻.芳文社.2021年.79頁)

すずと同じみちのく芸術大学に通う女性。普段は焼き鳥屋にてアルバイトをしていますが、すずの友人曰く「タレが美味しい店だが本人は塩対応」とのこと。

祖父が有名な写真家で彼女自身も大学の進級展で優秀賞に選ばれるほどの実力者であり大学内では有名人です。

オオタカの写真撮影をしていた際に、偶然すずに出会って以降、彼女達のバードウォッチングに参加するようになります。厳しい口調から近寄りがたい印象を受けますが、野鳥の写真撮影では野鳥の自然な姿をカメラに収めることに拘り撮影に1週間掛けるなど、写真家として芯があり、その姿勢は自身の絵に迷いを感じていたすずに芸術のヒントを示すことになります。

また、すずと同じく翼が運営する「トリさんぽch」の熱心なファンという意外な一面もあります。



こんな方にオススメ

良質な「女の子×○○趣味」漫画が読みたい方
漫画を通じて新しい趣味に挑戦したい方


【キーワード】「日常」「大学生」「美術」「動物」「バードウォッチング」

本作品は、『まんがタイムきらら』の作品として非常にバランスよく仕上がっていることに加えて、前述した鳥の繊細な描写や丁寧な解説もあり近年数を増やし続ける所謂「女の子×○○趣味」漫画としても非常に良質な仕上がりになっています。

登場人物が大学生であることから、一般的に高校生を主役に据える事の多いほかの「女の子×○○趣味」漫画と比較すると活動の自由度が高くなっていることも特徴です。

また、主人公がバードウォッチャーとして初心者であるため作中の解説は非常に丁寧であり、それでいて雑学なども交えることで難解になり過ぎることなく幅広い層が楽しめるように工夫されています。

また、そういった点が評価されバードウォッチングマガジン『BIRDER(バーダー)』(文一総合出版)ともコラボレーションしており、そちらと合わせてバードウォッチングの入門書としてもオススメできる作品となっています。

連載開始から日も浅く既刊2巻(2023年8月17日現在)と揃えやすいため、是非読んでいただきたい作品です。



感想(ネタバレ含む)

細部まで描き込まれた躍動感ある鳥の作画

本作品の魅力は氏によって描かれた迫力ある鳥の作画にあると感じます。羽毛の模様まで繊細に描かれた鳥は近縁種であってもその違いが分かるほどです。

大学で映像を専攻していた氏はインタビューにて”映像を撮る感覚で漫画の構図を考える”と語っており、鳥の作画からは4コマ漫画でありながら立体感を感じられ、すぐ目の前に鳥がいると錯覚するような臨場感を味わえます。

また、4コマ漫画ならではの下から斜め上方向への視点移動も作中のバードウォッチングでの視点移動とリンクするように作られているなどの工夫も光ります。
(引用:https://media.comicspace.jp/archives/18988/2023年8月17日閲覧)

バードウォッチング初心者に寄り添った丁寧な解説

主人公であるすずがバードウォッチング初心者であることもあってか作中の鳥に関する説明は非常に丁寧です。また、その説明対象の鳥にまつわる雑学を交えた解説は、これまでバードウォッチングをしたことがない読者であっても取っ付きやすい作りになっています。

私事になりますが、私の友人は大学の卒業研究にて大学周辺の野鳥の調査を実施したことがり、作中にてすずが自力でコゲラを同定した場面は、発見から同定に至るまでの手順、そして同定後の反応まで当時の友人と完璧に一致しており思わず友人に報告した経験があります。

本作品は、氏の前作に当たる『佐藤さんはPJK』(まんがタイムきらら)完結後、当時氏が熱中していたバードウォッチングを題材とすることで誕生したそうですが、著者がバードウォッチング初心者であるからこそ、そういった初心者ならではの経験の描写なども現実味を帯びているのだと感じます。



お気に入りの場面・台詞

❝付き合った途端見た目が変わるなんてサギじゃん…❞
❝カモですよ❞
(引用/わらびもちきなこ.『しあわせ鳥見んぐ』第1巻.芳文社.2021年.31頁)

繁殖期を過ぎると外見が変化するオシドリに対して言い放ったすずの詐欺とサギを掛けた駄洒落です。駄洒落と理解していない翼による冷静なツッコミも冴えるお気に入りの場面です。

本作品にはほかにも岬の❝まったくクロウさせやがって❞(引用/わらびもちきなこ.『しあわせ鳥見んぐ』第1巻.芳文社.2021年.63頁)など、「鳥」を掛けた駄洒落が数多く存在するので探してみるのも一興です。



小ネタ・余談

※2024年9月1日追記
「定期船とびしま」とのコラボ

2024年1月9日X(旧:Twitter)にて酒田市と飛島を結ぶ定期航路である「とびしま」とのコラボレーション企画が発表されました。コラボに際してガイドマップの配布、コラボポスターの掲示がされたほか、山形県庄内地域のコミュニティペーパー『コミュニティしんぶん』にも記事として取り上げられました。

※2024年9月1日追記
ドキドキ★ビジュアル★展覧会2022

本作品は、2022年に全国各地のジーストアにて開催された「ドキドキ★ビジュアル★展覧会2022」で、『ぼっち・ざ・ろっく!』(芳文社/著者:はまじあき)と共に展示されました。コミック複製原画をはじめ、カラーイラスト、等身大スタンディPOPが展示されたほか、限定グッズも販売されました。

※2024年9月1日追記
まんがタイムきらら 200号記念特別付録小冊子

2020年7月号にて200号を迎えたまんがタイムきららを記念した特別付録に本作品も掲載されました。氏の作品である『佐藤さんはPJK』(まんがタイムきらら)とのコラボレーションイラストが描かれています。

※2024年9月1日追記
まんがタイムきらら独立創刊20周年特別付録小冊子

2023年12月号にて独立創刊20周年を迎えたまんがタイムきらら、当誌に付属した特別付録冊子に本作品も掲載されました。

わらびもちきなこ氏の『しあわせ鳥見んぐ』とのコラボ漫画で、巨大UFOの噂を聞き山形まで訪れた海果とユウがバードウォッチングの最中だったすずと翼に出会うというストーリーでした。

「みちのく芸術大学」のモデル

上記で著者は大学にて映像を専攻していたと記述しましたが、インタビューにて氏は、本作品に登場する「みちのく芸術大学」は氏の出身大学である「武蔵野美術大学」ではなく、本作品の舞台でもある山形県にある「東北芸術工科大学」をモデルにしたと述べています。
(参考:https://media.comicspace.jp/archives/18988/2023年8月17日閲覧)



無料で読める公式サイト



最後に

今回の作品紹介はいかがだったでしょうか。

『しあわせ鳥見んぐ』は2023年8月17日現在でも連載を続けており、本誌の表紙に選ばれる事も少なくないことからTVアニメ化に期待の持てる作品だと思います。

文章内でで大学時代の友人の経験談を述べましたが、私は彼と同じ研究室であり当時、研究対象を「野鳥」か「昆虫」にするかで悩んだ末に昆虫を選択したという経歴があるため、近い将来こうしてブログを書くことになるのなら野鳥を選択すればよかったと今になって少し後悔しています(笑)

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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